第8章 魔導学園4

第170話 ダンジョン

──ムースペッルの大獄・とある場所。


 そこに六人の獣人の姿があった。



「お前たち一人一人にドローンを付ける。何かあった時は、ドローン、もしくは高次元マギア・グラムを使ってSOSを出せ。俺が駆けつける」



─はい!

 五人が返事をする。



「マナーの悪い冒険者がいたら基本的には無視だ。お前たちは極力関わるな。

 このドローンは人を感知して画角に入るようにプログラムされている。つまり、マナー違反をそのまま画像を付けて通報出来るシステムになっている。

 ギルドに送ってしまえば、ランク降格か、冒険者資格の剥奪になるはずだ」


─はい!


「ラヴ」 


「はい!」


「お前はヒーラーだ。攻撃しても構わんが、サポートがメインだと言うことは忘れるな。お前が死んだらパーティは全滅すると思っておけ。いいか、何が何でも死ぬな。お前は生存が最優先だ、いいな?」


「はい!」


「他の四人は全員前衛だが、作戦はこうだ。『がんがんいけ』

 しかし、お前たちはパーティだ。単独行動はするな。単独行動が目立つやつはメンバーから外すからな? 俺は、お前たちをソロプレイでもやって行けるくらい鍛えたが、それはそれだ。

 ダンジョンに入る前までにお前たちに中級冒険者、Cランクの資格を取らせたのは、攻略ダンジョンランクを上げるためだ。

 低ランクダンジョンはお前たち五人では散歩しているだけの配信となる事が予測される。また、低ランク冒険者には低俗な輩も多く、絡まれやすい。

 中級ダンジョンからは、冒険者も一気に減るが、モンスターの格が上がる。スキルも魔法もステータスもぐんと上がる。そして、ダンジョンスタンピードなど、群れで現れるモンスターもいる。

 本番は上級ダンジョンを考えているが、肩慣らしに中級ダンジョンを難なく攻略してもらう。良いか?」


─はい!


「よし! 行って来い!」


─はい!


 

 アルゴノーツの面々は、リオを先頭にダンジョンの入り口へと向かう。



コメント

・始まったぞw

・キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

・リオたそカワユス♡

・俺はラヴりん応援するでやんす!

・コンちゃんの尻尾もっと写して!

・ウルたんの尻尾ももっと!

・俺はニアのニクキュウが見たい!

・え、ニクキュウあるの!?


 「みんな、頑張るから応援よろしくね!」



 各々ドローンに向かって手を降った。


 意気揚々とダンジョンへと踏み入った五人。いちばん身軽で素早さが高い猫人族のニアが先行して索敵を行っている。兎人族のラヴは後衛に配置しているが、バックアタック防止のために最後尾は狼人族のウルが任された。

 狐人族のコンとリーダー・獅子人族のリオは前衛左右に展開している。


 ダンジョン内はそれなりに広く、ゴツゴツとした岩肌が続く。ムースペッルのダンジョン特有の熱さはあるが、耐えられないほどではない。

 マキナ特性ドローンには被写体になる人物のバイオメーターを随時観測し、高次元マギア・グラムで体調管理を行っているため、異常があればすぐにネモと本部に通達される仕組みになっている。


 チャンネル配信はムジカレーベルが行っているが、マキナの会社『めたもるふぉ〜ぜ』と、リリーズ財団がスポンサーについており、それぞれのCMが流れている。


 スパチャ(スーパーチャット)と呼ばれるギフティング機能の一種、いわゆる投げ銭で、それぞれのメンバーを応援することが出来、そのお金でメンバーは衣装を購入して、見た目装備を変更してゆく事が出来る仕様だ。

 当然、ダンジョン探索に必要なアイテムも買うことも出来るが、そのへんの最低必要経費は会社から支給されている。


 また、見た目装備のデザインはリリーズキャッスル御用達の服飾デザイナー・アリアンヌと錬成技士・鍛冶師・魔導具師マキナの共同製作となっている。


 カタログはリンクから閲覧することが出来、メンバーに合わせてデザインされた、様々な装備(衣装)を取り揃えている。

 しかし、購入するのはメンバーたちであって、視聴者はスパチャによる投げ銭しか出来ない仕様だ。カタログは閲覧可能なので、メンバーに要望をコメントで伝える事は可能である。



 中級とあって、ゴブリンやコボルトなどの下級モンスターは出てこない。


 今、目の前にいるのはスライムだ。もちろんただのスライムなどではない。



──バチチッ!


「ちょっと、いきなりヤバくにゃい?」


「リオ、これ、どうすんの?」


「取り敢えず殴ってみる?」


「いや、たぶん……たぶんだけど、感電しちゃうんじゃない?」


「だよね〜?」


──う〜ん……


「そうだ!」


「ん?」



 リオはドローンに向かってにんまり笑った。



「みんな、観てる〜!? ねえ、あれ見えるかな? ビリビリスライム! どうするのが正解!?」



コメント

・金属製の装備多いし、基本的に物理特化型だから、倒すとなると相性悪いよね……

・にげる!

・ばかっ!配信終わっだろ!

・だよな?

・Ⓜ観たところ、通路が狭くないし、避けて通るでいんじゃね?

・おお? 中級冒険者か?

・攻略勢キタ──ッ!!



「Ⓜさんありまと! とりまやってみるー!」



 獣人族の五人は難無くスライムをすり抜けた。



「やた────っ!!」


「Ⓜさんありがとね──っ♪」


「Ⓜさんchu⌒♡」



コメント

・Ⓜ(//∇//)

・いいな──っ!!

・俺にもクレメンス!

・今の動画誰か録画してねー?

・これ、キャプチャ無理じゃね?

・お、次のモンスター来たんじゃね?


 

 見ると少し先にサンドリザードが三体。サンドリザードは四メートル以上はある大型の肉食トカゲだ。とても素早く、初心者では噛み砕かれるか、尻尾で吹き飛ばされる。



「リオ、あいつらぶった斬って良い? 良いよね!?」


「ニア、ちょい待ち!」


「一匹は私にちょうだい? あとはみんなの好きにして!」


「おけ! じゃあ、左の一匹を残して速いもん勝ちだー!!」


─おお!!


 ニア、コン、ウルは一斉に飛びかかる。サンドリザードは大きく口を開けて迎え撃つが、上下の顎がそのまま引き裂かれてゆく。


 もう片方と言えば、もう肢体がバラバラで見る影もない。


 リオはツカツカと左に残された一匹へと距離を詰めた。


 ふう、リオは息を吐いて構えた。サンドリザードはのそり、とリオを見下ろすように岩の上から様子を窺っている。


 

「しゃーっ」



 リオが両手を挙げてちいさな身体で威嚇してみせた。

 サンドリザードはビクッ、として、リオが襲って来ないのを確認したのか、一歩引いて飛びかかった!

 

 リオの頭をサンドリザードの顎が捉えたかと思えたその時、ドカッ、とサンドリザードが真横に吹っ飛んだ!!


 見ればリオが回し蹴りの残心をとっている。


 サンドリザードはピクピクと手足が痙攣していて、口からは泡をふいている。


コメント

・すげっ!

・おお~っ!?

・一撃!!

・とてもスライム避けた冒険者とは思えねー!


 リオがずんずん、とサンドリザードへ近付き、わしっ、と尻尾の先を掴むと、ズルズル、と引き摺った。自分の何倍もあるサンドリザードだ、全て持ち上げることはできない。どうしても引き摺ってしまうのだ。


 リオはそのままもと来た道を戻ってゆき、大きく足を振り上げると。


 バン!


 サンドリザードを前方へ叩きつけた!


 バン! バン! バン!


 サンドリザードは続けて三回叩きつけられた。


 バン! バン! ブチッ! ドン!


 更に三回叩きつけられると、切れた。リオは切れた尻尾を投げ捨てると、サンドリザードの身体をうしろに放り投げた。



「よし!」 


─おおっ!?


 サンドリザードを叩きつけた場所にはビリビリスライム、とリオが呼んでいたスパークスライムが潰されて、ビチビチ、と力無く放電しながら伸び切っていた。サンドリザードを叩きつけられて、中の核(魔石)が壊されたようだ。


「きゃー! リオちゃん天才!?」


「さすがリーダー!」


「ふっふっふっ……。でも魔石を壊しちゃった。次は別の方法考えないとね!」


「ビリビリ対策だね!」



コメント

・なんて力技……

・脳筋すぐる……

・でも威力絶大だな……

・質量ってなんだっけ?

・さあ?

・Ⓜ何か俺、自信なくすわ……



 アルゴノーツによるダンジョン攻略は始まったばかりだ。

 まずは一階層踏破を目指し、五人は奥と進みだした。

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黒白の異世界狂愛曲《モノクローム・ラブソディ》 かごのぼっち @dark-unknown

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