第169話 入寮試験?

─ギン!


「……」


「……」


「……やるな?」


「これは、どう言う事ですか?」


 寮長の斬りつけた長剣をカインはナイフで防いでいる。


「ふむ。 入寮試験だ」


「そんなの聞いていませんでしたが?」


「安心しろ。 入寮を許可してやる」


「そうですか、二人なのですが構わないのですね?」


「うむ、二言はない。 女は上の部屋、男は下の空いてる部屋を使えば良い。 入寮申請書には目を通してサインしてもらうぞ?

 そして、オレが寮長のスクルドだ。 困ったことがあれば何でも言えば良い。いいな?」


「……わかりました」 


「そっちの女も、いいな?」


「……はい」


「あれ? 寮長、そちらは?」


「おお、ノワール! ちょうど良かった。 新しい入寮希望者だ。 案内してやってくれんか?」


「え? スクルドさんは?」


「え? オレは朝稽古があるからな?」


「え? ……寮長の仕事っていったい……?」


「じゃ、任せたぞ!!」


 

 寮長は長剣を鞘に収めてスタスタと自室へと消えた。

 ……えっと……??



「あのぉ……」


「え? あ、はい?」


「あなたがノワールさんですか?」


「はい。 僕がノワールですが?」


「わあ!? ずっとお会いしたかったんです!!」


「ふぇ?」


「ルルワとお兄様はお姉様からノワールさんのお話を聞いて、是非ともお会いしたかったんです!!」


「お姉様……?」


「はい、エカチェリーナ様でございます!」


「そうなんですか、まあ、どんな風に紹介されたか存じませんが、僕がそのノワールで間違いありません」


「感激ですわ!! ねえ、お兄様!?」


「うん! ぼくら兄妹共々、是非、色々と教えて欲しいです!」


「……教えるって、僕もまだ学生なので、魔法の事なら先生に聞いた方が良いですよ?」


「お姉様からは、ノワールさんは何をするにおいても凄いお方なのだと伺っております!」


「そんな、幻滅させるから、期待しないでくれるかな?」


「側で見ていたら解るとのことでしたので、より近くで見ようと入寮を決めましたのよ?」


「そう言えば、エカチェリーナさんとお知り合いだと言うからには、お貴族様なのでは?」


「まあ、貴族と言っても片田舎の男爵家ですわ! 平民と何らかわりません!! ねえ、お兄様!?」


「ああ。 貧乏貴族は寮生活でも十分だよ。 ホテル住まいだなんて、贅沢過ぎるだろう?」


「まあ、何も詮索はしませんよ。 どうぞ案内しますので、ついてきて下さい」


「「はい」」


「先ずルルワさんから案内しますが、先に一階の食堂と風呂の説明をします」



 そう言って、僕は寮内の案内を始めた。先ず最初にお風呂とトイレだ。



「はい、ここが風呂場で男女分かれているので、間違わないようにしてくださいね。 石鹸や洗髪剤は備え付けのもので良ければ使って下さい。 あと、寮生活に当番制で仕事もあるのですが、そのひとつにこの風呂掃除があります」


「思っていたより広くて綺麗ですね」


「はい、ですのでお二方も綺麗に使ってくださいね?

 もちろんトイレも同様です。 紙やエチケットボックスは用意しておりますが、掃除は当番制です」


「「わかりました」」


「次に食堂ですが、私が居る間は私が料理当番を請け負っております。 それ以外の仕事を皆さんで割り振る形になりますが、その中に食器洗いがあります。 覚えておいて下さい」


「「はい」」


「おやノワール、ご飯の時間か?」


「マキナさん、さっき朝ご飯食べましたよね?」


「じゃあ、ブランチだな?」


「そんなのありませんよ!?」


「あの……この女の子は寮長の娘さんとかですか?」


「わははははははははは!! 面白い事を言う!!」


「こちらは、僕の姉でマキナさん。 姉さんは学園の臨時講師をしているんだ。

 マキナさん、こちらは次の新入生で新寮生の双子さんで、お兄さんのカインさんと、その妹のルルワさんです」


「「よろしくお願いします!」」


「ああ、よろしくな!!」


「あの……失礼ですが、お二人は本当にご姉弟きょうだいなんですか? 見た目があまりにも……」


「正真正銘、戸籍上はマキナさんは僕の姉で、ドワーフ族なので見た目はこの通り幼いです」


「つまり、ノワールさんはドワーフ族ではない、と言うことですのね?」


「はい、僕とロゼ、シエルは人間です」


「え、ロゼさんやシエルさん?もご兄妹なんですか?」


「そうですね。 僕の妹のたちです」


「そんな事は良いじゃないか。 それより君たちは何処の出身なのだ?」


「ルルワたちは帝国の片田舎ですわ!」


「片田舎? と、言うと?」


「……ミドガルズエンド、です……」


「ミドガルズエンド。 街は西街ウェストか?」


「いえ、その……北街ノースにある領主邸です」


「ほう、と言うことはだ。 キミたちはメークイン男爵家の?」


「よくご存知ですね?」


「ああ、住んでたからな?」


「え……そ、そうですか。 ちなみにマキナさんはどちらにお住まいだったのですか?」


「うむ、西街だが?」


「商業区ですね。 と言うと何か商いを?」


「まあ、雑貨だな」


「へえ。 やはりドワーフ、手先が器用なのですね?」


「ぐえへへへへへへへ。 褒めても何もやらんぞ?」


「い。いや……要らないですけどね?」


「そうか!? ところで、ノワール?」


「なんです、姉さん?」


「お昼は何だ!? カレーか?」


「いや、そんなにしょっちゅうカレーばかり作りませんからね?」


「じゃあ、何を食べさせてくれるのだ!?」


「今日のお昼はハンバーグですよ」


「なぬ!? あの不思議ハンバーグか!?」


「何です、それ!?」


「謎の汁が溢れる飲むハンバーグだ」


「謎の汁……それ、美味しいんですか?」


「食べてみればわかる!」


「そう……ですか」


「とりあえず、お二人は部屋に荷物を置いて、ゆっくりしておいてください。 今日はお昼を食べて帰って下さい。 出来上がったらお呼びしますので!」


「「わかりました」」


 カインさんとルルワさんは、お辞儀をすると、各々自室へと向かい、僕はお昼の支度を始めることにした。


 僕は皆の昼ご飯の用意だ。相変わらずメリアスさんがお手伝いしてくれるので助かっている。


 もうじき、カインさんとルルワさんとの入れ替わりで、メリアス先輩とマリオン先輩は卒業するのだが、メリアス先輩は学園に残って研究員として、キャロライン教授の助手を手伝うらしい。

 つまり、学生寮から出て行くのはマリオン先輩だけだ。


 マリオン先輩は卒業したら産業用ゴーレムの製作工場への就職内定が決まっているらしい。

 入社試験の際には、是非にでも入社して欲しいと、会社の方からオファーがあったのだとか。

 キンゴレ優勝のネームバリューは伊達ではないらしい。



「皆たん! お昼ご飯でっせ──────っ!!」


「メリアスさん!?」


「どうちたですか? ノワールたん✿」


「いや、なんでも……」


──ドンガラガッシャーンドッテンチーン!


 相変わらず賑々しく食卓が埋まってゆく。



「ふおおおおおおおおお!!」


「ハンバーグだぁ〜♪」


「ハンバーグだぁ~ねぇ〜♪」


「スマッシュポテトもある!!」


「さあ☘おやたいもたっぷりあるので食べてくだたいね〜✿」


「カインさんとルルワさんは空いてる席に着いてください」


「「はい」」


──いただきま〜す!


「マリオン先輩? そんなの動画に撮ってどうするんですか?」


「ん? 肉汁どばぁ〜を撮ってマグヌスに自慢してやんだよ」


「へ、へぇ〜?」


「ふうわあああ!?」


「ルルワさん、どうかしましたか?」


「本当に中から肉汁が溢れて来ます!!」


「ルルワ、これ、口に含んでもジュワ~って出て来るぞ!? 本当に飲み物みたいだ!?」


ほんほわほんとだ〜!?」


「ほら、このソースをかけてみろ?」


「何ですかこれ?」


「ハンバーグにかけるソースですよ。 いくつか用意してますので、お好きなのをどうぞ?」


「普通にこの塩で食べても旨いんだが、このソースによる味変も楽しい」


「チーズがお好きなら、お野菜やパンと一緒にこちらのラクレットチーズをかけてくださっても良いですね」


「お兄様?」


「ん? 何だルルワ?」


「この寮は危険ですわ!?」


「何を言ってる?」


「こんな美味しい料理が毎日出てきたら、ルルワ、確実に太ってしまいます!!」


「じゃあ、俺が食べてやるよ!」


「全力でお断りいたしますわ!!」


「どっちだよっ!?」


──わははははははは!



 どうやらマリオン先輩と入れ替わりで、この双子が入って来るらしい。

 僕たちもあと一年、頑張って魔法を習得しないと!!

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