あの海へ

口羽龍

あの海へ

 将人は大学4年生。来年からは社会人だ。毎年のように楽しんでいた夏休みも、今年が最後だ。夏休みは長い。日頃の疲れがしっかりとれる。だけど、今年までとなると、少し寂しくなる。だけど、社会人になると、夏休みなんてなくなる。短い盆休みになってしまう。


「いよいよ来年から夏休みって、なくなるんだな」


 実家で、将人は悩んでいた。最後の夏休みはどうやって過ごそう。もうすぐ夏が終わろうとしているのに、まだ決まらない。


「そうね。だから、楽しみましょ?」

「うん」


 そこに、父がやって来た。父はこの近くの会社に勤めていて、朝から忙しい。今は東京に住んでいるが、ここにいた頃は、起きた時はすでに出勤の準備をしていた。今日もそうだ。毎日忙しい。社会人になると、僕もこうなるんだろうか?


「最後だから、寂しいのか?」

「うん。今年が最後の夏休みなんだもん」


 と、父は将人の肩を叩いた。突然の事に、将人は驚いた。


「だけどな、人は成長しなければならない、独り立ちしなければならないんだ」


 将人は戸惑った。確かにそうだけど、夏休みがなくなるのがつらい。今年が最後だとわかっているのに、なかなか受け止められない。来年の4月からは社会人なのに。


「そうなのかな?」

「うん」


 と、父は厳しい表情になった。今さっきの優しそうな表情が、まるで嘘のようだ。


「お父さんもみんな、社会人になって、成長して、ここまで来たんだ。だから、いつまでも夏休み夏休みって、甘えてる場合じゃないんだよ。わかった?」

「うん」


 と、将人は思った。もうすぐ夏が終わる。そろそろ海水浴シーズンが終わる。今のうちに海に行ってみようかな?


「ちょっと、海に行ってくるね」

「うん」


 将人は決めた。朝ご飯を食べたら海水浴に行こう。そうすれば、気持ちがすっきりするかもしれない。


 朝食を食べ、歯を磨いた将人は、海水浴に行く準備を整えた。


「行ってきます」

「行ってらっしゃい」


 将人は海水浴に向かった。将人の実家は海沿いにあり、夏になると海水浴場が多くの人で賑わう。今日はどれだけの人々が集まっているんだろう。


「来年からは盆休みぐらいしか行けなくなるのか。寂しいな」


 歩いている間、将人は人通りを気にしていた。人通りはあまりない。もう夏の終わりだから、みんな自宅に戻っているんだろうか? 大学生の夏休みは9月の下旬までだ。夏は終わりだけど、大学生の夏休みは折り返しに入った所だ。


 将人は海水浴場にやって来た。海水浴場は人が少ない。夏がもう終わるからだろうか? とても寂しいけれど、これが夏の終わりなのかと感じる。


「将人くん、久しぶり!」


 突然、後ろから声をかけられた。将人は振り向いた。そこには、幼馴染の昭子(あきこ)がいる。中学校までは同じだったが、違う高校に進学した。だが、それ以後も親しい関係だった。だが、大学になると、将人は東京に行き、あまり会わなくなっていた。


「昭子ちゃん!」


 将人は驚いた。まさか、ここで昭子と再会するとは。


「まさか、ここで再会するとは」

「嬉しい?」

「うん」


 幼馴染の昭子にまた会えて、嬉しいようだ。昭子は笑みを浮かべている。昭子も嬉しいようだ。


「いよいよ来年から社会人なのか」


 昭子はわかっていた。将人も来年から社会人だ。会える時間が少なくなるだろう。だけどそれは、独り立ちのために必要なんだ。


「うん。来れる日が少なくなるんだ」

「寂しいよ。でも、成長しなければいけないんだね」


 と、昭子は将人の肩を叩いた。どうしたんだろう。将人は驚いた。


「その気持ち、わかるわ。でも、お互い頑張りましょ」

「ああ」


 2人は美しい海を見ている。僕たちは変わっていく。独り立ちして、結婚して、子供に恵まれる。だが、海はいつもと変りない風景だ。


「きれいな海だね」

「本当」


 ここの海は美しい。昔から多くの人々を魅了してきた。今日はそうじゃないけど、夏になると多くの人がやってくる。


「子供の時と一緒だね」

「うん。僕たちは大人になっていくけど、この景色は全く変わらないね」

「そうだね」


 と、将人は思った。昭子は来年から、どうするんだろう。就職の事を全く聞いた事がない。昭子は何になるのか、聞きたいな。


「昭子ちゃんはどうするの?」

「ここに残って、教員になろうと思うの」


 昭子は大学を卒業後、地元の小学校の教員になる予定だ。両親も教員なので、その道を歩んだんだろう。東京で過ごす将人と対照的で、地元にいながら就職するようだ。


「そうなんだ。僕は東京で会社員になるんだ」


 それを聞いた昭子は驚いた。まさか、将人が東京の会社に就職するとは。将人は成長したな。自分とは全然違う。とても頑張っているな。


「そっか。でも、盆休みになったら帰ってきてね」

「うん」


 将人は思った。これからは短い盆休みだけど、その間に昭子に会えたらいいな。


「帰ってきたら、東京であった事を話してほしいな。約束だよ」

「うん」


 離れていても、この海のように、また会えるから、寂しくないよね。そう思うと、長い夏休みはなくなり、短い盆休みになるけど、短いからこそ有意義に過ごしたいな。

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あの海へ 口羽龍 @ryo_kuchiba

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