第8話 敬語の運用について
言い方を工夫する
「貸してくれ」を「貸してください」と書くのは敬語の文法としては正しいのです。
しかし直接「貸してください」と言うよりも「貸していただけませんか」と尋ねるような言い方にしたほうがより改まった感じになります。
▲いきなり本題を言わず、前置きの言葉を置く
伝えたいことをいきなり言わず、前置きの言葉を使うと、物事がうまく進むこともあります。
「すみませんが、〜」「失礼ですが、〜」「おそれいりますが、〜」「まことに恐縮ですが、〜」「申し訳ありません(ございません)が、〜」「ご迷惑かと存じますが、〜」「少しお願いしたいことがありますが、よろしいでしょうか。」
以上は相手が自分の利益になることを求める場合の伝え方です。
次に逆に自分側から相手のために何かをする場合、自分側をへりくだり、控えめに言って相手に対する敬意を表す言い方です。
「つまらないものですが、どうぞお納めください」「気の利かないものですが、ご笑納ください」「何もございませんが、召し上がってください」「お口に合いますかどうか、遠慮なさらず上がってください」「心ばかりのものですが、お納めください」「微力ながら、お手伝い致します」
また「〜してあげる」「〜して差し上げる」などの表現は、理論上は謙譲語を用いていて誤りではないが、恩着せがましい印象を与えるので避けられる傾向にあります。
▲直接的な依頼・要求を避ける
相手に何かを依頼・要求する場合、直接的な要求を避けて疑問形など相手の意向を尋ねる形で自分の要求内容を伝えると、より丁寧な感じの言い方になります。
ですので、お願いするときは「〜してください」と言わず、相手の意向を尋ねるようにしましょう。
「〜してください」は「くれる」の尊敬語「くださる」を使っていますが、命令形であるため少し失礼な感じがします。
より改まったお願いの仕方では、「〜していただけますか」などの疑問形にすると、相手がするかしないかを決められるので受け入れやすくなります。
「ご覧ください」⇒「ご覧いただけますでしょうか」
「お越しください」⇒「お越しいただけますでしょうか」 ※「お越しくださいますでしょうか」はやや丁寧度が低い。
「お伝えください」⇒「お伝え願えますでしょうか」
のように言うことで、より改まったお願いができます。
また疑問形によらず、「お越しいただけますと幸いです」のように、「そうしてもらえるとありがたい」という状況を伝える形で自分の要求を表現する方法もあります。
「どいてください」には相手を敬っている印象はないはずです。
この「どく」という動詞も俗っぽい単語なので、尊敬語に合いません。
「恐れ入りますが、どいていただけますでしょうか」も合いませんよね。
この場合「後ろ失礼します」と自分が通ることだけを告げて、客の判断でどいてもらうという方策がとられます。
この例からも、元の文から特定形・一般形に改めたとしても敬語にならないことが多くあります。
文法がいくら正しくても、ふさわしい表現にはならないことが多々あるのです。
敬語は相互尊重の観点から「自分が話すときに相手をどれだけ気遣うか」が重要であって、特定形や一般形を知っていれば万全というわけではありません。
▲相手の意に沿わない可能性のある話には、事情説明をきちんとする
要求・謝罪・断りなど、相手の意向に沿わない可能性のある話をするときには、相手の意向によらずこちらの言うべきことを言わなければならないので、一方的な押し付けにならないように注意し、相手への誠意を示すよう努めなければなりません。
そのために「▲前置き」があるのですが、それに加えて事情説明をきちんとすることも、相手に納得してもらううえで重要な役割を果たします。
たとえば「田中さんをお願いします」と問われたが、会議中で本人が来られない場合。
「申し訳ありませんが、田中はただ今出られません」と伝えると一方的な印象を与えてしまいます。
「申し訳ありませんが、田中はただ今会議中で、出られません」と事情を説明したほうが誠意が伝わり、納得させやすいのです。
▲相手の知識・能力や意志・感情を直接話題にしない
相手の知識や能力を直接話題にしたり、「〜したいですか」「うれしいですか」など、意志や感情を直接問うたりすることは失礼に当たるのでできるだけ避けましょう。
避けるとはいえ「直接要求は疑問形に」というような定番の代替表現があるわけでなく、その場での判断と気遣いが重要となります。
たとえば相手の知識や能力に関しては自分側の問題や周りの状況として表現することで問うことを避けるのです。
意志・感情に関しては感情そのものに直接踏み込むのではなく、客観的に観察できる範囲にとどめて表現する。などの対処がありえます。
▲自分のことに関しては、押し付けや「上から目線」にならないように気をつける
自分側のことに関する表現が、文法的に適切な敬語をもってなされているとしても、押し付けがましいとか、見下しているとかといった印象を持たれてしまえば誠意は伝わりません。
▲言葉のみならず、話す態度全般に気を配る
敬語を話す場面では、言葉だけで伝達がなされるわけではありません。
声にも感情はこもるし、視線・姿勢など、話している人の態度そのものが、誠意を測る指標となります。
言葉だけで誠意の伴わない敬語は、いかに適切な言い方であろうと相手には響かず、望む効果も得られません。
円滑なコミュニケーションのためには、言葉選びだけに腐心せず、態度全般に気を配りたいものです。けっして難しいことではなく、相手を思い、誠意を持って向き合えば、その思いは自然と伝わるものです。
本質的に大切なのは相手への気遣いであり、相手への気遣いの現れのひとつが敬語であるにすぎないのです。
▲誤りとされる表現
近年では変化を伴わない「〜になる」や、相手の許可が必要ないことについての「させていただく」などが誤りとして取り上げられます。
「こちらは本日のメニューになります」は、これからメニューに変化するわけではないのでおかしい、「メニューでございます」などにするべきだとか。
面接で「高校時代、学級委員長を務めさせていただきました」は面接相手の許可によつてではないのでおかしい、「務めました」にするべきだとか。
「〜のほう」も誤用とされます。「消防署のほうから参りました」は消防署から来たわけではなく、そのあたりから来ただけなのかもしれない。「消防署から参りました」にするべきだとか。
▲忌み言葉を避ける
【結婚の場】で「終わる・帰る・重ねる・切る・去る・離れる・破れる・別れる・割れる」など。また「重ね重ね」のような畳語は結婚を繰り返すことが連想されるため避けられます。
【お悔やみの場】で「いよいよ・くれぐれも」などの畳語は不幸が繰り返されることが連想されるため避けられます。
【お見舞いの場】で「終わる・繰り返す・絶える・散る・再び・まいる・弱る」など。またここでも畳語は避けられます。
【新築の場】で「傾く・枯れる・崩れる・壊れる・倒れる・燃える・焼ける」など。
【開店・開業・栄転の場】で「落ちる・衰える・終わる・寂れる・閉める・倒れる・潰れる・閉じる」など。
スルメは賭け事でお金を失う「する」は縁起が悪いので「あたりめ」と呼び、賭け事が「当たる」にかけるのも忌み言葉を回避する一種です。
また「四」は「し(死)」と読まず「よ」「よん」と読むなども忌み言葉の一種です。
最後に
今回で「敬語」についての基本的な情報の履修を終えます。
あとは日本語検定の問題集・ドリルなどをこなして、「敬語」を何パターンでも読みこなすことで身につけていきましょう。
百の理論より一の実践が、敬語表現を身につける最短距離です。
問題集・ドリルはジャンル別のものが売られていますので、「敬語」の問題集・ドリルを購入すればよいでしょう。
これにて、「敬語」の副読本の連載を終えます。
短期集中にお付き合いいただきましてありがとうございました。
今回の勉強で履修に使った書籍は下記のとおりです。
【参考書籍】
『日本語検定公式テキスト・例題集 「日本語」上級』東京書籍(税別1100円)
ぜひ本書籍を購入して、テキストとして役立ててくださいませ。
私の学習内容よりも深い表現もありますので、より腑に落ちるはずです。
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