953.敬語篇:目上の能力を問ったり評価をしたりしない

 今回で「敬語篇」は終わりです。

 敬語自体は正しいのに、使い方を誤ることで敬意を示せなくなることがあります。

 四シーンで見てみましょう。





目上の能力を問ったり評価をしたりしない


 敬語自体は的確なのに、使い方が的確でない場合があります。

 たとえば目上の能力を問う形だったり、目上を評価する形だったり。

 こういった使い方をしないように注意してください。




目上の能力を問わない

 あなたが課長だったとします。

 部下から次のように言われたらどう思いますか。

1.「課長、メールはできますか?」

2.「課長、パソコンはおできになりますか?」

3.「ただいまの説明でご理解いただけましたか?」

4.「おわかりになりましたか?」

 いずれも課長であるあなたの能力を問われているような物言いです。

 このような場合、部下は次のように言い換えると課長の威厳を損ねません。

1.「課長、メールはなさいますか?」

2.「課長、パソコンをお使いになりますか?」

3.「ご説明不足の点はございませんでしたでしょうか?」

4.「言葉が足りない箇所はございませんでしたでしょうか?」

 1.はメールをするかしないかを問うことで、メールができるかどうかは問いません。

 2.はパソコンを使うか使わないかを問うことで、パソコンができるかどうかは問いません。

 3.と4.は部下側の説明の良否を尋ねて、課長の理解不足を問いません。


 相手の説明を理解したのであれば、

「じゅうぶん理解できました」

「よく理解できました」

「丁寧にご説明いただき、理解が行き届きました」

 また単純に「よくわかりました」

 のように、理解したことを相手にはっきり伝えましょう。

 もし理解できなかったのなら、

「○○というように理解しましたが、間違っておりませんでしょうか?」

「○○の部分がまだじゅうぶん理解できておりません」

「○○について、もう一度ご説明いただけませんでしょうか?」

「○○の部分をお教えいただけませんでしょうか?」

「○○について確認させていただけますでしょうか?」

 など、自分なりの解釈を伝えたり、もう一度説明してくれるよう促すとよいでしょう。

 自分のほうが立場が上だとばかりに「もう一度説明してください」などと命令するのは避けましょう。

 また「わかったふり」は絶対にしないでください。

 ビジネスの場において、後々周りの人に迷惑をかけることになるからです。質問できる機会にきちんと裏をとりましょう。




上司を評価しない

 上司の手柄を褒めたいと思う部下の心もわかります。

 しかし直接「さすがですね」「なかなかやりますね」「見直しました」などと言ってはなりません。

 こちらも上司の能力を部下が評しているからです。

 そこで言い方を変えます。

「勉強になりました」「教えていただくことばかりです」「課長のもとで働くことができ、幸せです」のように自分が感じたことを書けばよいのです。

 上司を褒めず、その上司からどのような影響を受けているのかを書きましょう。




上司に尋ねるときは

 まずは上司に丁寧語「お忙しい中」「お忙しいところ」と切り出しましょう。 

 上司にも仕事があり、そのさなかに相談したいわけですから、それをかしこまって伝えるべきです。

 そこで丁寧語「申し訳ございませんが」「恐縮でございますが」「恐れ入りますが」と続けます。

 前置きをしっかりした後で「○○の件について」と本題に入りましょう。

 今回は相談したいわけですから謙譲語「ご相談する」を用いて「ご相談したいことがありますが」「ご相談致したいことがございますが」「ご相談申し上げたいのですが」「うかがいたいのですが」と続けます。

 そしてどのくらい時間をとるのかわかっていれば謙譲語「十分ほどお時間をいただけますでしょうか?」、時間がわからないときは謙譲語「お時間をとっていただけませんでしょうか?」と聞くのです。

 これが定型文になります。


 相談して問題が解決したら「お忙しい中を」「お忙しいところ」、謙譲語「お時間をとっていただき」「貴重なお時間をいただき」と時間を割かせたことを謝りつつ、尊敬語「ご教示いただき」「ご教示くださり」「お教えいただき」と教えてくれたことを、丁寧語「ありがとうございました。」として締めましょう。

 単に丁寧語「たいへん勉強になりました。」尊敬語「ご指導いただいたとおりに行ないます。」「ご指導いただいたことを、今後に生かしてまいります。」と済ませることもできます。


 定型文では以下のようなものがあります。

「明日の都合はどうですか?」⇒丁寧語「明日のご都合はいかがでしょうか?」

「これはどう処理しますか?」⇒丁寧語「こちらはどのように処理致しますか?」

「明日は何時に相手先に行きますか?」⇒尊敬語「明日は何時に先方にいらっしゃいますか?」

「今日は会社に戻りますか?」⇒尊敬語「本日は会社にお戻りになりますか?」

「これを相手に送ってよいですか?」⇒謙譲語「こちらを先方にお送りしてよろしいでしょうか?」

「相手にどう伝えますか?」⇒謙譲語「先方にはどのようにお伝え致しましょうか?」




謝るときの敬語

 皆様は謝るとき、どんな敬語を使いますか。

「どうもすみませんでした。」「迷惑をかけているようで、すみません。」「どうか許してください。」などと発言していませんか。いずれも丁寧語でしかありません。謝る際の敬意が足りないのです。

 謙譲語の「ご迷惑をおかけしております。」とするだけで印象が異なります。

 そして謝意は丁寧語「(誠に)申し訳ございません。」謙譲語「(心より・深く)お詫び申し上げます。」を用いてください。





最後に

 今回は「目上の能力を問ったり評価をしたりしない」ことについて述べました。

「敬語篇」は今回で終了です。

 敬語のエッセンスを詰め込んでいますので、これで敬語間違えを起こすことはまずないでしょう。

 自信を持って敬語を書いてくださいませ。



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