君の詩-12 songs-

リド。

January's Song

 朝起きると、窓の外は真っ白な世界に包まれていた。

 部屋の中も冷え込んでいて、ぶるっと身震いをした「ぼく」は、また布団の中に潜り込んだ。


 お家の外からは「きみ」の楽しそうな声が聞こえてくる。

「ぼく」を呼んでるの?

「ぼく」は寒いのが苦手だ。

 少しでも暖かい場所を見つけたら、日がな一日中その場所で過ごしていたい。


「きみ」は今年初めての雪に大喜び。小さなお庭を右往左往走り回って、はしゃいでいる。


「ほら、雪だよ!触ったら手も足も冷たくて面白いよ!」


「ぼく」は「きみ」のように子供じゃないんだ。




 お昼を過ぎると朝に積もった雪は、半分くらいが溶けていた。


「ぼく」のお気に入りの場所--お家の2階西側の小窓。

 窓から射し込む陽射しに暖められて、これからの時間はここが一番暖かいんだ。


 小窓から覗くと、「きみ」がいるお庭が見える。


 あれ、「きみ」が居ない。

 どこかに出掛けたのかな?まぁ、いいや。

「ぼく」はこれから、ここでお昼寝の時間だから。



「ミケちゃん--ただいま」

 小学校から帰って来た、一姫いちこちゃんが「ぼく」の頭を撫でてくる。


「ぼく」もおかえりって一姫ちゃんに言うと、お家の外から「きみ」の声が聞こえてきた。


「翔ちゃん!おかえり!一緒に遊ぼうよ!」

「きみ」はママと一緒にお兄ちゃんを迎えに行ってたのかな。

「きみ」はお兄ちゃんの周りをぐるぐる走り回る。


 やっぱり子供だな。


「ぼく」が窓から窺っていることに気付いたお兄ちゃんが、「ぼく」に手を振る。


「ミケちゃん、何を見ているの?」

 一姫ちゃんが「ぼく」を抱き上げる。


「あ、翔くんだ--。」


 一姫ちゃんは「ぼく」を抱えたまま、お外に出る。



 うぅ、お外は寒いよ、一姫ちゃん。

「ぼく」は一姫ちゃんの体にぴったりとくっついた。一姫ちゃんの温もりを感じる。


「ぼく」に気付いた「きみ」は嬉しそうに声を上げているけど、お兄ちゃんに「うるさいよ」って怒られて少し寂しそう。


「翔くん、今日ね、学校でね---」

 一姫ちゃんはお兄ちゃんと楽しそう。


「きみ」はお兄ちゃんの足元でニコニコしながら「ぼく」を見上げてる。


 それから、何年間も「きみ」は雪が降る度にはしゃいでいたね。


 でも、今年は「きみ」の声が聞こえない。

 小窓から「きみ」のお庭を覗いてみても、

「きみ」の姿も「きみ」が使っていたお皿やおもちゃももうそこにはない。


 ねぇ「きみ」。

 雪、降ってるよ。

「ぼく」に遊ぼうよって

 誘ってくれないの?



 今日は一姫ちゃんと隣のお兄ちゃんの結婚式。

 結婚式って、家族になることだって一姫ちゃんが言ってた。


 それじゃあ、「ぼく」も「きみ」と家族になるのかなぁ。

 お兄ちゃん、一姫ちゃん、そして「きみ」と「ぼく」。

 これからは一緒にみんなで暮らすのかなぁ。


 その日から一姫ちゃんは帰って来なかった。

 隣のお兄ちゃんも見掛けなくなった。




 何年が過ぎたのかな。

 何回雪が降っても「きみ」の声が聞こえない。

「ぼく」、耳が聞こえなくなったのかな?

 そういえば、もう目も見えにくくなってきた。


 でもね、あの場所だけは「ぼく」の場所。

 目が見えなくても分かるんだ。

 暖かいから分かるんだ。


 ここから見下ろしてたら「きみ」が居る。

 見えてなくても感じれるんだ。


 ねぇ、声を聞かせてよ。


 ねぇ、「きみ」はどこにいるの?


 ---

 __


 あれ。


 暖かい。


「今日は暖かいね。」


 あの日の「きみ」の声がする。

「ぼく」は目を開けた。


 あれ?

 目が見える。

 耳も聞こえる。


 遠くから「きみ」が走ってくる。

 またニコニコした顔で、「ぼく」の周りをぐるぐる走り回ってる。


「久しぶりだね。。」

「きみ」が「ぼく」を呼ぶ。


「うん。随分と会ってなかった気がするよ。」


「ぼくはきみをずっと見ていた。空からずっと。きみはあの窓からぼくを探してくれてたんだね。」


「きみ」はそういうと、「ぼく」の顔をペロペロと舐めた。


「くすぐったいよ。お返しだ。」

「ぼく」も「きみ」のほっぺたをペロペロ舐めた。


「ねぇ、。ここ、暖かいね。ぼく、ここが好きになりそうだ。」


「ミケちゃんは暖かいところが好きだったからね。いいよ、ここにずっと居よう。」


「きみ」は寝そべり、「ぼく」は「きみ」のお腹の辺りで丸まってみた。


 暖かい。

「きみ」ってこんなに暖かかったんだ。


 心地いい。ゆっくり眠ろう。






おやすみなさい。





 ____

 ___








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