April Fool's Day & A Spring Wind

 4月1日。僕の誕生日だ。

 嘘のような日に産まれた僕は、嘘みたいな名前を付けられた。

」。

 ライオンキングが好きだと言う理由だけで。両親のネーミングセンスを疑ってしまう。


 そして、同じ日に同じ街で産まれた「君」。僕達は偶然近所に住んでいたこともあり、当然の様に家族ぐるみの付き合いが始まった。


 僕達は一緒に育てられたと言っても過言ではない。

 何処に行くにもいつも一緒。本当の兄弟と思ってしまう程に。

 幼い頃の喧嘩の種はどっちが兄で、どっちが弟かと随分幼稚な理由だった。


 小学校も中学校も同じ。いつでも同じ時を過ごしていた僕ら。

 しかし、「君」との時間はある日突然途絶えてしまう。


 高校2年生の春休み。暖かい風が吹く陽気な日だった。

 ずっと僕が片思いをしていた、井上さんに「君」が告白をした。


「君」も僕が中学の頃から井上さんに恋をしていると知っていたのに。

「君」は応援すると言ってくれていたのに。


 僕だけが違う高校に進学し、「君」は井上さんと同じ高校に進学していた。

 だからって何も言ってくれ無かった「君」を許せなかった。


 家も近いから、「君」が井上さんと一緒に居るのをよく見かけた。

 気不味くて、「君」達を見ないように避けていた。


 大学生になると僕は地元を離れ、「君」たちと合わなくなった事もあり少しだけ安心していた。


 悲しい気持ちは時が解決してくれる。

 本当にそう思うんだ。

 僕は僕で、同じ大学の子と恋に落ち、「君」や井上さんのことはもう、程度に落ち着いていた。


 落ち着いたら落ち着いたで、たまに「君」たちの事を懐かしく思い、恋しくなる。

 人間って、こうやって強くなっていくんだと思っていた。


 大学生最後の年。

 残りの授業も少なくなったこともあり、僕は一人暮らしのアパートを引き払い、実家から授業の日だけ通うことにした。


 たった3年間で町は変わりつつあった。

 新しい住宅地。

 新しい飲食店。

 新しい国道。


 ただ、変わらないものもあった。

「君」の家族と僕の家族が毎年花見に来ていた河川敷の公園。

 今年も満開の花を咲かせていた。相変わらずの賑わいに、河川敷はお祭り騒ぎ。屋台の出店も数店舗出ており、僕は缶ビールと焼鳥を買った。


 桜がかろうじて見える場所に、コンクリートブロックを見つけ腰掛けた。

 昔は皆で来ていたな--とぽつりとボヤき、缶ビールをプシッと開ける。


「獅子王--か?」

「え?」


 声の主は「君」だった。

「獅子王、久しぶりじゃん。帰って来てたんだな。」

「あ、うん。昨日から--ね。今年はもう、授業もそんなに無いから、実家から通うつもりで。」

「--そうか。そしたらまた、昔みたいに会えるな。」


「君」と並んでビールを飲む。

 僕が一番「君」に聞きたかった事や、昔避けてしまったことへの謝罪は--言えなかった。

 何となくお互いに気不味さが残っていた。

 少しの間、二人して無言だったのだが、空気が重くなる事を察したのか、「君」の方から切り出してきた。


「そうだ、獅子王。--あの時は悪かったな。」

「え?」

「早苗のこと。」

 --井上さんとのことか。

「いや、僕の方こそ--ごめん。君の事を避けるような態度をとって。」

「--逆の立場だったら、俺もそうしたさ。お前の恋愛相談を聞いておきながら、肝心な自分の気持ちは隠してた訳だし。」

「--もう、大丈夫だよ。それに僕、今、付き合って2年になる彼女がいるんだ。」

「へぇ、それはいつか紹介して貰わなきゃだな。として。」

 そういうと、「君」はニンマリと笑った。子供の頃からその笑顔は全く変わっていない。

「君はどう考えてもだろ--!」


 何年ぶりだっただろう?

 僕達は肩を並べ、笑い合っていた。


「--っつか、何でこんな遠い場所でしてんだよ。いつものところに場所取りしてるから、お前も来いよ。」


「君」に手を引かれ着いた場所は、昔からのお馴染み場所。

 河川敷内で一番大きな桜の下で、「君」の家族と井上さんが待っていた。


 --そうか、井上さんも「君」の家族として迎え入れられているんだな。あの時、彼女が付き合い始めたのが「君」で良かった。


 その日、僕はと一緒に、と初恋の人の未来について心から祈った。


 きっと、このなら、僕の彼女の事も家族として迎え入れてくれるだろう。


 一瞬びゅう、と風が吹き桜の花びらを舞いあげた。

 天高く舞う桜を見上げ、僕は思っていた。


 来年、桜が満開の季節にきっと連れて来るよ。

「君」に一番に紹介したいんだ。

 僕の一番大切な人を---。


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