第2話

「妹は、どうして、兄がどら焼きを作ってくれなくなったのか不思議に思っているでしょうね」

 どら焼きを作るはずだった四日目。どういう訳か、夜遅くなっても、兄は帰宅しなかった。

 知り合いが代わる代わる来ては、妹の世話をやいていった。時には、お店のどら焼きを持って。

「要らない。だって、お兄ちゃんがどら焼き作ってくれるから」

 そう言うと、大抵、大人は溜息を吐いたり、泣いたりした。

 それから、短くはない時が過ぎた。兄がとうとう帰ってきたのだ。

「お帰りなさい。私、他の人が、お店のどら焼きを持ってきても食べなかったんだよ。だって、お兄ちゃんが作ってくれるからね」

「ごめん。それは、できないんだ」

 妹は、目をぱちくりさせる。

「そうね。皆、隠してたけど、病院にいたのでしょう。お家でゆっくり休んでね。そうして、元気になったらどら焼き作ってね」

 兄は、妹を抱き締めた。

「できない。できないんだよ」

 耳元で、涙交じりに言う。

「どうして?」

「どうしてかな」

 兄は、無理に笑ったようだった。

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四日目のどら焼き 神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ) @kamiwosakamariho

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