四日目のどら焼き

神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ)

第1話

 その日、私はアニメを観ていて、当然の疑問を口にした。

「どら焼きって、どんな食べ物なのかな」

 兄は、笑って答えた。

「まるい座布団みたいなのに、あんこが挟んであるお菓子だよ。良かったら、今度、作ってあげようか」

「本当?」

 声のした方に、振り返る。

 次の日、兄はどら焼きを作ってくれた。

「どら焼きって、お家で作れるんだねえ」

「ホットプレート、熱いから気をつけてね」

「はあい」

 恐る恐るどら焼きに触れる。

「噛みつかないってば」

 兄は、笑う。

「そりゃあ、どら焼きはそうでしょうよ。だからって、お兄ちゃんがいたずらしないかは解らないじゃない」

「いたずらしないから、お食べ」

「うん。いただきます」

 お皿の上の座布団。口元まで運ぶ。甘い匂い。無言で、食べる。食べる。

「何これ、美味しい」

「だろう?」

 兄が頭をなでる。あんまり悔しかったので、お腹をぽかぽかなぐる。

「痛い、痛い」

「明日も作ってくれるなら、許します」

「解った、解った」

 次の日も、次の日も、兄はどら焼きを作ってくれた。

 でも、四日目のどら焼きは食べられないまま…。




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