大寒波街灯背高さん

狐照

大寒波街灯背高さん

寒い寒い寒い大寒波の夜。

マフラーに顔を埋めて歩いてく。

本当に寒い。

いやになるほど寒い。

寒いって言葉がゲシュタルト崩壊してく。

カイロを忍ばせておけばよかった。

もっと厚着すればよかった。

よかったよかったを繰り返しながら、歩いてく。

すっかり暗いいつもの帰宅路。

もう何年も歩いてる慣れた路。

車がびゅんびゅん走ってく。

街灯はまばらだが暗くはない。

でも暗い。

寒いと暗く感じてしまうんだ。

早く帰ろう。

誰も待ってないけど早く帰ろう。

寒いから。


ようやくマンションが見えてきた。

目の前の角を曲がればエントランス。

後少し。

後少し。

だけど足が、遅くなる。

この曲がった先の路が、やばいのだ。

なにがやばいって、やばいっ!

ああ寒い!

風が冷たい!

なんでこの路は風抜けが良いのか!

めっちゃ良い!

だから冷たい風が強く吹き抜ける。

見えない壁が行く手をまじで遮って、俺を全然頑張らせてくれない。


急がないと、いけないのだ。


この路は、急がないといけないのだ。


遠くの街灯の下に、やっぱりアレが居る。

だから急がないと。

急げ急げ。

足が前に、進まない。

寒いんだよっ!

風が強すぎんだよっ!


女の悲鳴のような風が耳を千切ろうとしてくる。


ぎっくしゃっく

ぎっくしゃっく

異様な身体のそれがやってくる

冗談のような形

影が肉をもったみたいな

ああ


今夜こそ

今夜こそ


捕まって、しまうのか。


俺が四苦八苦してる間にそれが俺の眼の前にやってきてしまう。

ここまで距離を詰められたのは始めてだ。

真黒な背高、紅い眼が俺を見てる。

長い腕、手が伸びて俺の頬に触れた。


あたたかかった


風、感じなくなった。

いつか捕まるいつか捕まるって思ってた。


捕まったらどうしようってずっと思ってた。

けど。

まぁ、いいか。

暖かいし。

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