3話

みんなは度胸試しってした事ある?あれは度胸試しってよりは肝試しの方が正しいかもしれないけど。俺?俺はあるよ、度胸試し。小学生の時だけどさ、正直後悔してる。やんなきゃよかった。度胸試しの話?うーん、正直あんまり思い出したくないけど、話題に出したのも俺だし。うん、話すよ。


今日から三年生だ。でもって今日はあの日。俺たちの地元にはある度胸試しがある。この辺は畑やら田んぼやらが沢山あるんだ。カカシもいっぱいある。その沢山のカカシの中のとあるカカシに近付くのが度胸試し。なんでそのカカシなのかは分からない。でもそのカカシにどれだけ近付けるかってのでみんな度胸試しする。一年生なんかは怖がって近付けもしない。…まぁ俺も一年の時は怖かったけど。でも今日から三年生だ。俺たち数人は今日の放課後、度胸試しを実行しようとしている。二年生の終わり頃、三年生になったら行こうって約束してたんだ。

「じゃあ今日の帰り、あのカカシのとこ行くぞ!」

「おう!誰が一番近付けるかなー。」

「はいはい!俺、触れる自信あるぜ!あんなんただのカカシだろ?握手してきてやるよ。」

「ほんとかよお前。そう言ってこいつが一番近付けなかったりしてな。」

「な。なんなら逃げ出したりして。そしたら笑いものにしてやるよ。」

「は?逃げないよ!見てろよ!触ってやるから!」

カカシにどこまで近付けるか、より近くまで行けたやつがみんなから尊敬される。触れなんてしたらヒーローになれる。

「男子って馬鹿だよね。度胸試しとか、何が楽しいのか分かんない。」

「ねー。」

「なんだよお前ら。女子は怖いからそんなん言ってんだろ。」

女子が馬鹿にしてくる。でも一番近付けたやつとか触れたやつにはすごいすごいって言うんだ。ふと目が合う。あいつが見てる。あいつ、最近なんかかわいくなったんだよな。もし、触れたら。最近なんかかわいくなったあいつにもすごいって言ってもらえるかな。俺はぶんぶんと頭を振る。なんだよ。別にあいつにすごいって言われたくて度胸試しする訳じゃないから。

「よし。じゃあ放課後、度胸試しするやつは裏庭に集合な!」

教室で度胸試し行こうって言ってた時は十人はいたはずなのに集まったのは結局四人だった。

「なんだよ、ビビっちゃってさ。明日あいつら来なかったって言ってやろ。」

「まぁいいんじゃない?近付く前から逃げたあいつらより僕らの方がすごいってことでさ。」

「それはそうかも。行こう。」

いざ行こうってなると、急に怖くなってきた。一緒に行こうって言ってたやつらが来なかったからかも。俺は、今からそんなに恐ろしいことをやろうとしているのか?根が生えたように動けない俺を置いて三人が歩き出す。

「ん?おい?どうしたんだよ。今さら帰るとか言わないよな?」

「う、うん!行くって!」

俺は根っこを引きちぎって三人を追いかけた。

カカシは俺たちが立っている歩道の道路を挟んだ向こう側の畑に立っている。いつもと同じはずなのに、何故か背筋がゾクゾクする。今までだって何度でも見てきたはずなのに、何かが違うみたい。恐怖体が震えそうなのを武者震いってやつだって自分に言い聞かせる。

「な、なぁ。誰から行く…。」

みんなあんなに威勢がよかったはずなのに誰一人近付けずにいる。

「お前…先行けよ…。」

「や、やだよ!なんで僕が…!」

言い争いになりそうだ。俺だって、認めてしまうと怖かったけど、こうやって道路を挟んでカカシと対面している事が、気が変になりそうなくらい怖かったんだ。

「…俺。行く。」

「お…マジか…。」

車が来ていないのを確認してカカシに近付く。ここらは車通りは少ないので確認しなくたって車が走ってることはほとんどないんだけど。俺はカカシに近付くにつれて、変な感覚になっていた。だってカカシって物だろ?なのに人を目の前にしているような。今だってカカシがじっとこちらを見ているような。そんなわけないのに。近付いていって、気付いたらカカシが目の前に立っていた。少し手を伸ばしただけで触れる距離だ。歩道で待つ三人の様子は伺えない。何故かは分からないがカカシから目を離すのが怖かったんだ。ふと、あいつの顔が頭をよぎる。触ったら、すごいって言われるのかな。気付いたら俺はカカシに触れていた。思っていた感触と違う。冷たいけれど柔らかくて、まるで人間に触れているような。『人間に触れているような』?俺が触れているところがズルリと剥がれるようにめくれる。思わず離した手にはめくれた何かが着いている。赤黒い、肉のような何か。ハエが集って、白い小さな何がが蠢いている。ウジだ。喉の奥がヒュっと音を立てる。頭上から何かが降ってくる。顔まで垂れてきたそれを逆の手で拭う。赤に白い何かが混ざったぬたぬたと光るそれ。

「い…た…、いた…い…。」

喋ってる。カカシが喋ってる。これは本当にカカシなのか。見上げたそれは人の姿をしていた。顔はぐちゃぐちゃになり、男か女かも分からないけど、確かに人だった。

「…う、うわぁぁあ!!」

車なんて確認せずに道路を横切って歩道に戻る。叫びながら走ってきた俺に驚いたのか、他の三人も何が叫びながら走って逃げる。

「あ…ぶな…。…るま…あぶ…いよ。ひかれるよ。」

カカシがまだ何か言っていたようだがその声をかき消すように叫んでいた俺には聞こえなかった。

走って学校まで戻ってきてしまった。他の三人は突然叫んで戻ってきた俺に、どういう事だ、度胸試しが台無しだと責め立てたが、その声には安堵が滲んでいた。そして俺の方は、カカシを触った手も変な液体を被ったはずの頭にも、それを拭った手にも、土汚れしか付いていなくて説明できなかった。戻ってきてしまったからには仕方ないとその日は帰ることになった。


次の日さ、一緒に行ったやつらが俺がカカシに触った事をクラス中、隣のクラスにまで言って回ってた。おかげで俺はヒーローになれたわけだけど。あと気になってた女の子にも、強いんだねって言われた。嬉しかったかって?…どうなんだろうな、分からないんだ。学年のヒーローになれたことも、気になってた子があれ以来頻繁に話しかけてくれるようになったことも、嬉しいことなんだろうけどそれよりもあの日見たカカシとカカシを触った感触が忘れられないんだ。『カカシを触ったすごいやつ』って言われる度にさ、思い出すんだよ。…今でも忘れられないよ。なぁ、俺の頭、なんも付いてないよな?手も、肉…なんか付いてないよな?なぁ、付いてないよな!?…ごめん。まぁとにかくさ、あんまりいい思い出じゃないんだ。度胸試しなんてやるもんじゃないな。

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カカシ 仁城 琳 @2jyourin

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