2話
「おーい、優也。一緒に帰ろうぜ。」
「うん。」
僕は数ヶ月前にこの学校に転校してきた。今まで住んでたのとは違う、言ってしまえばド田舎。馴染めるのかと不安はあったがこの中学のみんなは優しく僕を受け入れてくれた。転校初日から声を掛けてくれて友達もすぐに出来た。
「なぁ、優也。今日時間ある?」
「うん。あるけど。」
「じゃあさ、面白いとこ連れてってやるよ。」
「面白いとこ?」
「おう。まぁ行ってからのお楽しみで。じゃあ行こうぜ!」
いつもの帰り道とは違う。探検しているような状況に、中学生にもなって僕はワクワクしていた。この先に何が待っているのか分からない。何よりも今まで住んでいた場所とは違う、自然に囲まれた環境がそうさせていたのだろう。
「ねぇ。面白いものって何なの?」
「まぁまぁ、もうちょっとだからさ。」
畑が見えてくる。これも僕にとっては新鮮。前に住んでたところには畑も田んぼも無かったから。
「ほら、あれ。」
「わ…。」
カカシだ。本物を見るのは初めてかも。ちょっと気味が悪い。本物の人間みたいだ。
「な、もうちょっと近付いてみろよ。」
「…え?僕だけ?」
「おう。あのカカシさ、この辺では度胸試しに使われてんだ。どこまで近付けるか、ってさ。触れたやつなんてヒーローだぜ!まぁそんなんやるの小学生だけどな。で、お前はやってないだろ。せっかくこっちに越してきたんだしやっとけよ!」
「せっかくって…。」
度胸試しか、たしかに不気味だ。でもちょっと面白そう。近付いてみようと一歩近づいた時、ぶわりと鳥肌が立つのを感じた。足が止まる。
「お?もしかしてお前、結構ビビりだったり?」
「あの…あのさ…。あれって…。」
「え?」
あれは。あれはただのカカシなんかじゃない。
「あれが…カカシに見えるの…?」
「…は?」
おかしな方向に曲がった手足。頭の先からつま先まで傷だらけ。パックリと割れた頭からは脳汁が垂れている。目玉は、片方はどこかに行ってしまったのか。ぽっかりと空いた眼窩。もう片方の目でこちらをじっと見ている。口が動く。見たくないのに目が離せない。
僕はやっと動かせるようになった足を引き摺り後ずさる。
「う、うわ…。」
やっと口から出た言葉はひどく乾いていた。
「お、おい。どうしたよ。そんなビビんなくてもさ…。」
友人の声は聞こえない。すぐそばに居るはずなのに。なのに。
「…い、たい。」
どうしてあんなに離れたところにいるカカシの声は聞こえるんだ。
「帰ろう!!」
「な、なんだよ急に!」
僕は友人の腕を握り走って来た道を引き返す。引き返したつもりが土地勘のない僕は滅茶苦茶に走っていたらしく、友人に止められる。
「おい!待てってば!どこ行くんだよ!!」
「はっ…はぁっ…。ご、ごめん…!」
周りを見ると全く知らない場所だった。
「…悪かったよ。ああ言うの、苦手だった?」
「そうじゃないんだけど…。」
友人に連れられ、ようやくいつもの通学路に戻った僕はようやく少し落ち着いた。
「ねぇ、あのカカシさ…、あれ本当にただのカカシ?」
「え?そうだろ?」
「本当にただのカカシに見えてるの?」
「うん?そうだけど…。」
あれが、カカシ?僕がテレビや写真でしか見た事なかったから、あんな風に見えた?そんな訳ない。だってなんで、なんで。
「『ただのカカシ』が『あんな見た目』で『痛い』なんて言うんだよ。」
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