第2話 初戦闘で四苦八苦

 初めてのマルチプレイ。その初陣だ。

 受注したクエストは最初のフィールドマップ「始まりの草原」でのモンスター10体の討伐(種類不問)。

 お互いの力量を確認するのも兼ねて肩慣らし程度。

 いとも容易く終わるはずだ、と思っただろうな。


 自分のスキルことは自分が一番よくわかっている。



「食らえっ!」

 俺の職業はデュアルガンマン。二丁拳銃から放たれる圧倒的な手数で敵を制圧する最高にクールな職業だ。

 基本スキルである「フルバレットショット」は敵に十二発の弾丸を浴びせる技。これによりザコ敵スライムは当然──


 無傷。


 敵の頭上に踊る12個のmissの文字。

「俺の弾丸を全て躱すなんて敵ながら最高にクールだぜ」

 苦し紛れなのは自分でもわかっている。でもこれが俺の固有スキル「乱射」の効果。

 この「乱射」は物理魔法問わずスキルの倍率を30%加算する強スキル。ただし、命中90%カットというデメリットを除けば。

 命中は敵の回避との相殺もあって内部で色々計算された結果、


 脅威の命中率2%!!!


 らしい。ソーシャルゲームのガチャなら100回、200回挑戦して当たらない事すらある確率だ。

 その点デュアルガンマンは俺の好みが九割九分なのだが、数撃ちゃ当たる的な意味でも噛み合った職業ではある。それが強いのならソロプレイなんてしてなかったんだが。


「次はチャミィがやるですぅ!」

 我先にと飛び出した俺の後ろから身の丈程もあるを構えてドタドタと駆けて行く小さな背中と長すぎて毛先が地面から離れられない銀髪。

 チャミィが片手剣を振り上げるとまるで冗談のような現象が起こった。

 剣はチャミィの手からすっぽ抜け、チャミィ自身はデカすぎる胸に振り回されて長い銀髪を巻き取りながらきりもみ回転をして跳び上がり、着地と同時に胸が見事に地面にグリップしてゴロゴロと転がって茂みの向こうへ消えていき、放り出された剣はスライムを貫いて地面に突き刺さった。

 スライムに与えたダメージは7。あれだけド派手に色々巻き起こしておきながらダメージは並。スライムの一発撃破にすら足りていなかった。


「最後は我の番だな」

 真打登場と言わんばかりの雰囲気を醸し出しながら俺の横に進み出てきたのは自称賢者のニコラス。

 唱えたのは初級魔法の「ファイア」。サッカーボール大の火の玉が飛んでいきスライムに直撃。ダメージは13でMPを消費すると考えれば妥当。弱っていたスライムを撃破するには十分な威力だった。

 魔法は熟練度によってレベルと威力が上昇し、ものによっては追加効果が付いたりするらしいけど見た感じではそれもなさそうだ。

 つまり普通。オチにもならないし、固有スキルの良性悪性も判断出来ない結果となった。

「なんだその目は。言いたいことはちゃんと言え」




 初戦闘を終えて反省会。お互いのスキル等を開示し合う。


 チャミィ。職業はウェポンマスター。あらゆる武器防具を装備可能だが魔法方面のステータスがからっきしの完全物理職だ。

 そしてその職業の利点を全て台無しにする固有スキル「不器用」。

 その効果は、全ての武器熟練度がEランク初級どころかFランク苦手に固定されるというもの。

 驚いたのがそれでもウェポンマスターから転職するつもりがない事。よりもあの奇天烈な挙動の武器がすっぽ抜ける以外の部分はスキルが関係していなかったということだ。



 自称賢者ニコラス。職業は賢者。本当だった。攻撃魔法と回復魔法の両方を使いこなすものの、低いHPのせいで物理どころか魔法にも打たれ弱い難儀な職業だ。

 そして固有スキルは「万能」。一見有能そうな字面だが、その効果はプレイヤーレベルやステータスによる習得条件を無視して魔導書を読めば魔法を習得可能。ただし、熟練度が一切上がらない。見事な罠スキルだ。

 このゲームは例えば「ファイア」と別に上位魔法「スーパーファイア」があって乗り換え方式で魔法が強力になるのではなく、「ファイア」の熟練度を上げて最後まで単体炎魔法「ファイア レベル〇〇」として使い続ける。だから熟練度による威力上昇が出来ないことは死活問題だ。



 つまりこのパーティは、

 ノーコン青天井沼ガチャデュアルガンマン

 攻撃がド下手な派手ドジウェポンマスター

 なんでも出来るけど上達しない賢者

 という絶望的にハズレなパーティだ。

 全てのギルドから声がかからない売れ残りが集まったのだから当然の帰結。



 それでもこれを逃せば一生ソロプレイ確定な俺たちはお互いに少しずつ不安を抱きながらもマルチプレイを続けた。

 意外にも順調にクエストをこなすことが出来たのは防御は普通なチャミィと最序盤だけは普通なニコラスのおかげだった。

 普通にすら満たない俺って……。



「一つ提案なのだが、ダンジョンに挑戦してみないか?」

 そう提案してきたのはニコラスだった。

 確かに全員のレベルが一つ二つ上がって「始まりの草原」の敵は軽く一蹴出来るようになり、まさしく順調。次の目標への挑戦を考えるのは真っ当だ。

「チャミィも賛成ですぅ」

 チャミィも無駄にピョンピョンと飛び跳ねながら賛同する。

 残るは俺だが、

「まぁ、うん、いいんじゃないか?」

 役に立てていないことに引け目を感じながらも、二人のやる気を損なわせるようなマネは出来ずに頷いてしまった。



 多くのプレイヤーが一番最初に訪れるであろうダンジョン「平原の横穴」。易しいダンジョンなはずなのだが、「役に立てるのか」という課題が重くのしかかるのだった。

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