売れ残り冒険者でも難関ダンジョンを突破したい
マグ
始まりの草原編
第1話 売れ残りたちのワゴン
ゲーム「オンリーアライブ」。かれこれ4年程前に発売されたVR没入型MMORPG。
体感アクションではなく、コマンド選択式RPG。だからこそ、現実には不可能な動きや正確無比な射撃を行う人物になりきれる。まるで映画の登場人物の視点を味わっているような世界。というのがこのゲームの売り文句だった。
長いサービス期間でコンテンツも充実し、ゲームとしてはまさに全盛期。これからもどんどん発展していく上り調子真っ盛りで今日も新規プレイヤーの参入で大賑わい。
というわけでもない。
それもこのゲームのキャッチコピー「あなただけの
発売前は多彩極まる攻略法を予想して世のゲーマー達は賑わっていたのだが、いざ蓋を開けてみると
全てのプレイヤーに「固有スキル」が割り振られている。
その「固有スキル」は完全に玉石混交。
ここまではまだいい。
この「固有スキル」は端末ごとに固定。
この制約が全てを崩壊させた。
良いスキルが出るまでやり直すなんて出来ない一発勝負。そこでハズレを掴まされたらスマートフォンやPCを買い替えるまで一生そのままだ。
「人生にやり直しはない」とでも言いたいのだろうが、ハズレ能力を掴まされた一般層は瞬く間に離れていき、運良くマシな能力を持った層と端末ガチャなどという暴挙を行う無茶な富豪ゲーマー層だけが残った。
そして生き残ったプレイヤーたちによってギルドが作られ、「固有スキル」の選別が始まった。
新規プレイヤーが現れれば「固有スキル」を確認され、良スキルなら各ギルドで奪い合い。
ハズレだったプレイヤーは──
こうしてソロプレイを余儀なくされる。
俺はただこのゲームを楽しく遊びたかっただけなのに「固有スキル」のせいでそれも叶わない。
「もうちょいマシなスキルだったらなぁ……」
メチャクチャカッコいい西部劇風の長身ガンマンのキャラクリエイトをしたのに項垂れて歩いていてはカッコもつかなきゃ気分もアガらない。
「第一、これで運営出来てんのがおかしいだろうよ……」
ぶつくさ文句を垂れても実際運営出来ているんだから仕方ない。
現実問題として、数多の凡人が喉から手やら腕やら足まで出る程欲しい文字通り「世界で自分だけが出来ること」がここにあるのだからゲームの中に居場所を求める人はそれこそ無限に投資するのだ。
そんな廃人たちが
ただし、ハズレ能力は別。
それもそのはず。ハズレ能力持ちは当然引退率はほぼ100%。必ず損する投資なんて物好きやお人好しを通り越して金を捨てることに興奮する破滅主義の変態の領域だ。
まだこのゲームを始めて三日目の俺、操作キャラ名「ブレイブ」はここ以外に行ける場所がなさすぎて常連になった公用ギルド、ソロプレイヤーでも使えるクエスト受注窓口にやってきた。
建物内に入った瞬間にその場全体にピリッとした緊張感が走る。今日はここ二日とまるで違う。
人がいる。しかも二人も。
俺以外の元々いた二人は大広間に並べられたテーブルの端と端にそれぞれ座り斜めに三つのテーブルを挟んで達人の間合い──などというものではまるでなく、電車の車両内に二人だけが乗っていて、わざわざ近くに座るのもなんだし距離は取ったけど何故か気まずい状態。そこにもう一人来てしまった。これはもう、三すくみ。
(どうする?声をかけるか?もしかしたらソロプレイ脱却!?いや、そもそもここにいるってことがハズレ能力持ちか奇跡的にどこのギルドからも接触されていない超新規プレイヤーのどちらか、安易にパーティを組んでもお互いに気まずい雰囲気になる可能性が……)
そんなふうに頭の中で思考をフル回転させながら片方のプレイヤーの近くを通り過ぎる。
ふと、通り過ぎざまにプレイヤーの方をチラッと見ると……バチッと目が合ってしまった……。
クリッとした大きな茶色の瞳に長い銀髪の女の子。そこまで観察してお互いに目線を逸らすと、
(デッッッ!!!)
あまりにも極端なキャラクリに思わず目を丸くした。
顔を二度見して胸をガン見することの繰り返し。デカすぎて鎧のグラフィックが歪みまくっているし、なんなら頭より胸の方がデカい……。
当然、そんなあからさまな行動が隠せているはずもなく、その下品さに軽蔑……されてない?
巨乳の女の子は軽蔑するどころか頬を赤らめながらも両腕でその大きすぎる胸を寄せ、上目遣いでこちらを誘惑してくる。
「あの……俺とパーティを組みませんか?」
(俺の馬鹿!完全にやべー奴と思われたって!)
完全なる無意識。ソロプレイ脱却の願望があったにしても俺は今、もはや股間が喋ったと言っても過言ではない。
それを聞くと女の子は俺に背を向けて俯き、精一杯押し殺したような小声で「ヨシヨシヨシヨシ!アタシだってナンパくらい引っ掛けられるんだわ!」と渾身のガッツポーズと共に本性が漏れ出してしまっていた。
女の子は両手で自身の顔をぐにぐにとしばらくほぐしてからこちらへ向き直ると、
「はうぅ……チャミィで良ければお供しますぅ」
甘っっっっったるい声で快諾してくれた。
その声を聞いて昂っていた心が凪いでいく……。
少し──いや、かなり早まったかもしれない。
「俺の名前はブレイブ。よろしく頼む」
改めて自己紹介をするとキツ
立つ。立ってる?俺の前に立っているはず。それなのに俺の胸辺りに頭がある極端すぎる低身長。しかも髪が長すぎてグラフィック的には自分の髪の上に立ってしまっている。
(胸を3倍くらいすればそれ以外の体積を上回るんじゃないか?三頭身ならぬ三胸身。いったい何をどう拗らせたらこんなキャラクリをするんだ……)
「チャミィはチャミィですぅ。よろしくお願いしますぅ」
キツ
もはやギャグとすら思えるメチャクチャな奴なのにその巨塊を目が追い続け、意思に反して心が昂ってしまうのが悲しい男の
そんな最低に下品な俺と意味不明なキャラクリのキツRP三胸身女子によるパーティが組まれた。
俺にとって初めての仲間だ。
「わわわ、私を置いていくの!?」
パーティを組み終えて一歩目を踏み出そうとした瞬間に俺の前にドデカい何かが立ちはだかった。
一歩後退って見上げる。
これでも俺は180cmくらいにキャラクリしたのにそれを遥かに上回る長身。声を低くしているが間違いなく女の人。
魔女のような背の高い帽子、黒の長髪に毒々しい緑のインナーカラーを合わせ、鋭い切れ目にバッチバチのまつ毛、全身を覆う陰気な黒ローブと不気味さと威圧感が増す要素ばかりだ。
「せっかく居合わせたんだから二人だけパーティを組むなんてずるいじゃない!」
なんと言うか、威圧感溢れる姿に似合わず言う事が小さい。まるで子供のように駄々をこねている。
「──ハッ!ゴ、ゴホンッ」
俺たちの冷ややかな視線に気付いたのか急に居直って咳払いをして、
「我は賢者ニコラス。我と共に旅する事を──」
(無理があるだろ──っ!!!)
あまりにも急激な方向転換を図ってきて慣性でペシャンコになるかと思った。
「どうした?我と共に旅をしないか?」
第一声のキャラ崩壊を完全に無かったことにして進めるつもりらしい。
女性らしからぬ低めのイケボを持ってしても補いきれないポンコツ臭。これまたとんでもない人材かもしれない。
「まぁ、よろしく」
「うむ」
俺が手を差し伸べるとローブの隙間からキラッキラにデコられたネイルの女性らしい手が出てきて俺の手に重ねられる。
俺はまだ若く見識が狭い。世界は思っていたよりも世間一般に言う「おもしれーやつ」がよくいるらしい。
あまりにも濃すぎる二人との邂逅。
絶望的かと思われたマルチプレイが成立したが、こう見えてこの三人、まだハズレ「固有スキル」という特大の爆弾をお互いに隠しているのである。
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