第7話 新ギルド始動

 子供の時以来の約束。


 また明日。


 その言葉を胸に今日もゲームを起動する。

 プレイヤー名「ブレイブ」。二丁拳銃で戦う長身の西部劇風ガンマン。最高に憧れている姿アバターでゲームをするのは最高にアガる。

 固有スキル「乱射」は物理魔法問わずスキルの威力を30%加算するぶっ壊れスキル。同時に命中を0.1倍してしまうが、何故か跳弾を起こすと必中になる不思議効果もあったりする。


 ログインして真っ先にやってきたギルドハウス。ギルドを結成すると用意される個別ロビー。デフォルトでは洋風の一軒家(庭付き)だが後から色々変えられる。

 ギルドを組んで変わることと言ったらこれくらい。本来ならギルド対抗のダンジョンTAタイムアタックアリーナPvP等あるにはあるが、始めたての俺たちが挑めるような代物ではない。


 庭先で二人に招待を送ると待ってましたと言わんばかりの早さで入室してきた。

「こんばんわぁ、待ってましたですぅ」

 相変わらずの甘ったるいRPロールプレイと超低身長に超長い銀髪、超爆乳の超絶極端なキャラクリで現れたのはチャミィだ。今日は荒々しいが出てこないことを祈る。

 固有スキルに「不器用」を持ち、全ての武器熟練度がFランク苦手に固定されるハズレ能力。しかも武器に付与された効果を無効化してしまう。それを逆用してデメリット付きパチモン大剣デュラングルを使いこなす我がパーティ唯一の前衛。


「おはよう、ここが我らの拠点か」

 厳格そうな雰囲気で現れたのはニコラス。2m超えの巨体が魔女帽子で更に高く見え、緑のインナーカラーの黒髪にまつ毛バッチバチのキレ目と黒ローブが威圧感を倍増させる。が、怒るとRPが崩れて子供っぽい一面が顔を覗かせる。

 固有スキルは「万能」。魔導書を読むだけで習得条件を無視して魔法を習得出来る最強の能力。と思いきや魔法の熟練度が上がらず全ての魔法の威力がショボいまま成長しない特大のデメリットを抱えている。レベル1でも十分な最序盤の今は文字通り万能な我がパーティの要。


「お庭も広いですぅ」

 チャミィは敷石の道を外れて芝生の上を駆けて行く。キャラクリの犠牲になって地面を擦り続けている髪が不憫で仕方ない。

「じゃあ早速」

 玄関の扉を開けるとそこは、

「まぁ何も無いよね」

 ガランとした空き家だった。

 入ってすぐ右手の壁にクエストを受注出来る掲示板があるくらいでそれ以外は自由にカスタマイズ出来る。

 公用ギルドソロプレイ共用ロビーに置かれている実用的な施設の他、装飾用の施設から庭の花壇まで発売からの4年間で継ぎ足された施設が無数にある。

「それぞれ置きたい施設を置いていくか」



「まずはこれですぅ」

 真っ先にチャミィが設置したのは「鍛冶場」だった。

 このゲームでは武器や防具を鍛治で作れる。中でも自分が装備可能な武器防具を作る際には色々と有利な効果が働く。全ての武器防具を装備可能なウェポンマスターであるチャミィには最高の活躍の場と言えるだろう。

 しかも、

「えへ、えへへ、これで色んな子に会えるですぅ」

 デュラングルの造形に惚れ込んだりと武具フェチの気があるチャミィは涎を垂らして喜んでいた。


「我はこれがあれば困らないな」

 次にニコラスが設置したのは「本棚」だった。

 本棚ではゲーム中で手に入れた資料を閲覧出来る他、アップデートで店売りの魔導書の取り寄せが出来るようになったらしい。2年前の事だけど。

 手にした魔導書の数が強さに直結するニコラスにとって最重要と言っていいだろう。


 まず必要になるのはコレで間違いない。

 選んだのは「バーカウンター」。ここに腰掛けてバーボンを呷る。最高にクールだ。ゲームの中だから飲めないし酔えないけど。

「カッコつけですぅ」

「酔っているな、間違いなく」

 イマイチ不評なのがわからない。こんなにカッコいいのに。


 こうして思い思いに施設を配置していく。

 装飾品工房、通販窓口、射撃場。

 薬品錬金工房、キッチン、よく転がっている草タンブルウィード

 それぞれの性格や趣味がよく出ている。俺の設置したものに対する反応だけやたら冷ややかだったのが納得いかない。こういうものは雰囲気作りが大切なのに。



「そういえばぁ、ギルド名決めてなかったですぅ」

 一通りギルドハウス内が充実して皆でテーブルを囲んで椅子に腰掛けたところでチャミィが気付いた。

「しかし、ギルドを設立する際にブレイブが決めてしまったのではないのか?」

「問題無いぜ。設立から五日間は何度でも変えられる」

 それから議論は白熱した。


「『プリティギルド』ですぅ」

「男としてはプリティは避けたいな」


「『ギルティギルド』というのはどうだろう?」

「何も悪いことしてないですぅ」


「売れ残りだし『ワゴンセール』とかどうだ?」

「は?」

「ちょっと──いや、すごい嫌過ぎる」


「『ニコニコランド』ですぅ」

「メルヘンチック過ぎるな」


「『沸るギルド』」

「二文字の駄洒落は重罪だぞ」


「『目指せウエスタン』とか」

「終わってますぅ」

「真面目に考えて欲しいものだ」


 まるで決まらない。そして議論はもはや消耗戦の様相を呈していき、

「……『夢と希望の国』いや、ダメですぅ」

「……『わんだホープRUN』うむ、納得いかん」

「……『わんだと希望』なんか、パチモン感」

「……サンじゃなくて『ルナリオ』ですぅ」

「……『諦めルナ』」

「……『ルナ・ル──」

 言いかけたところで二人に本気でどつかれ、「もう二度と口を開くな」という圧を感じた。二人の案を合体させていただけなのに……。



「いっそ直球で行くですぅ。『レボリューション』とかぁ」

「ならば『ピースフル』」

「『ブレイクスルー』ですぅ」

「『フレンドリー』」

 ここでも二人の性格がよくわかる。

 チャミィは「革命」に「躍進」と上昇志向で活動的。

 ニコラスは「平和」に「友好的」。皆仲良く平穏に、な平和主義。



 二人がどうにか案を絞り出している中、発言禁止にされた俺は黙々と思案を繰り返していた。

(俺たちの共通点は一見使い物にならないハズレスキルを持っているせいで他のギルドから声がかからなかった事。それでもどうにかこうにかやりくりしてこのゲームを遊ぼうという集まりである)


 使


「そうだっ!」

 一瞬驚いた表情を見せた二人だったが、先程の俺の発言がまだ気になるのか訝しげな表情に変わった。

 しかし、さっきも今も俺は大真面目だ。

「俺たちは一見使い物にならない固有スキルをやりくりして攻略していこうってんだ。それで思い出した逸話がある、『木の肺』だ」

 二人はこの逸話を聞いたことがないのか首を傾げている。

「『木の肺』ってのは、その昔廃材を利用して医療器具の代替品を作り、貧しい病人を救ったと言う話だ。今の俺たちと似ていると思わないか?」

「でもぉ、ギルド名が『木の肺』は少し変な気がしますぅ。肺のイメージがかわいくないですぅ」

 チャミィからの反応は芳しくない。確かに臓器を名乗るのは少々グロッキーにも思える。

「であれば、肺を一杯二杯の杯に変えるのはどうだろうか?」

 チャミィの意見を汲んでニコラスは駄洒落の側面から切り込む。

 その意見を聞いてピンと来た!



「それだ!ギルド名は『木のさかずき』というのはどうだ?」



「ここまでで一番だと思うですぅ!」

「他が酷かったのもあるだろうが、悪くない」

 二人からの賛同を受けてこれで正式決定。



 これからギルド「木の杯」の活動開始だ!

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