第3話 ダンジョンは針の筵

 多くのプレイヤーが最初に訪れるであろうダンジョン「平原の横穴」に売れ残り冒険者たちが遂に足を踏み入れる。



 洞窟にも関わらず中は普通に明るい。これから先、難易度が上がると松明が必要になったりするのだろうか。

 最初のダンジョンなだけあって中での戦闘は単調なもので、

「こっちこっちですぅ」

 物理防御力の高いチャミィが敵の攻撃を引き付け、

「はあ!」

 その隙にニコラスの魔法で攻撃し、

「ど、どぞ……」

 俺が薬草でみんなを回復する。

 デュアルガンマンの名が泣くような我ながら情けない姿だった。仕方ないじゃないか、俺のダメージ期待値がほぼ0なんだから。


「うむご苦労。俺は見ているだけでいいから楽でいい」

 情けなさに溢れそうになる涙を必死に堪えながら空元気で少し横柄に振る舞ってみる。

「チャミィたちがお掃除しましたですぅ、ご主人様ぁ」

 するとチャミィがそれに合わせてくれた。

(あぁ……ヤバいわ、コレ……)

 優しさに絆されないように目にグッと力を込めて涙を押し留め、どうにか涙声を出さないように口を噤む。



 しばらく進むとフロアの表記がF1-2となりゲーム的には階層が変わったらしいことがわかった。

「階層が変わったな。それも変わり方がオシャレというか」

 ちょうどいいので雑談を展開する。というか、雑談でもして気を紛れさせないとまた泣いてしまいそうだった。

「階層1その2ってのがこのダンジョンが平坦──」


「だあれがへいた──ハッ!」


 空気が凍った。

 唐突に瞬間沸騰したチャミィの声音と威圧感に俺とニコラスは石像のように指一本動かせない程に萎縮してしまっていた。

「へ、へいた……いアリさんが出てきたら怖いですぅ。えへっ⭐︎」

(一番怖いのはあんただよ……)

 ついさっきの威圧感もかき消されるくらい衝撃的な面の皮の厚さだ。

 でもチャミィのおかげで涙が引っ込んだ。もしかしたら道化を演じてくれたのかもしれない。



 そこからさらに進むと壁に空いた暗くて先が見えない大穴の前に三つの宝箱と立て札があった。

「なになに?『宝箱には冒険に役立つアイテムが色々入っている。世界のあちこちにある宝箱を開けまくろう!』」

 つまるところが宝箱のチュートリアル。これまたわかりやすいことに一人一つあるのだからありがたく頂いておこう。

 特に示し合わせるでもなく左からニコラス、俺、チャミィがそれぞれ宝箱に手をかけると、チャミィが「せーのっ」と言うのでそれに合わせて慌てて開ける。

 宝箱の中には一丁の拳銃が入っていた。一丁しかないがデュアルガンマンは装備した拳銃が両手それぞれに装備した扱いになるので問題なく扱える。

元々装備していた拳銃(攻撃力4)よりも4倍以上の攻撃力18!装備しない手はない。


 二人はどうだったのかと目を向けると、

「ふむ、毒魔法か。習得条件はレベル80……」



「使えないじゃん!!!」



 ニコラスが厳かな賢者キャラ諸共毒魔法の魔導書を投げ捨てていた。

「まぁまぁ……」

「ムキーッ!」

 どうにか宥めるもニコラスはなかなか怒りが収まらないようで息を荒げながら地団駄を踏んでいる。

 2m超えの巨体が怒り暴れている様は本当に恐ろしい。

「あれ?ってか固有スキルで習得条件免除じゃなかった?」

 俺がそう気付いてボソリと呟くと同時にニコラスは長い手足をバタつかせて投げ捨てた魔導書に飛び付き、地面に伏せたまま読みだした。

「よしっ習得出来た!いくよ、ポイズン!」

 魔導書を読み終えたニコラスはウキウキと飛び起きて毒魔法を唱える。

 が、何も起きない。


 ニコラスの最大MP(30)<ポイズンの消費MP(90)



「もおおおお!!!!!」



 再び投げ捨てられた使用済みの毒魔法の魔導書は拾いに行くのも億劫に感じる程遥か遠くへ飛んでいき、消えた。システム的には使い終わった魔導書は捨てると消えるらしい。

 もはや賢者キャラの方が記憶から薄れつつある程にニコラスはプリプリと怒り続けている。

「今調べたんだが、昔毒が実装済みのボス全員に効いた所為でヌルゲーって言われて弱体化されたらしい」

「じゃあ開発者が宝箱の中身の調整をサボったから私が損してるってこと?なんかムカツク……」

 もうこっちのキャラで行くのかってくらいニコラスのゴキゲンが治らない。


 仕方がないのでニコラスが落ち着くまでの間にチャミィの方を見てみると、

「うふふふふふふふ」

 チャミィは自身の倍以上はあろうかという大剣を掲げて不敵に笑っていた。

 装備をすることに筋力や重量などによる制限が無いとはいえ、現実味のないアンバランスさだ。

 その不気味な笑いに怯えながらどうしたのかと尋ねる。

「めちゃめちゃカッチョイイ子が出たのですぅ。その名もデュラングルですぅ!」

「デュランダル!?」

 元ネタもさることながら色々なゲームで大体超強い大剣として扱われているあの──

「デュランルですぅ!」

 デュラン……グル?なんか安っぽいパクリみたいなネーミング。

「元々持ってた剣より10倍くらい強いしぃ、見た目もカッチョイイのですぅ!」

 強さは後で確認するとして、見た目がカッコいいのは全面的に同意出来る。

 俺の身長程に長い白銀の片刃の刀身。峰には炎の意匠が施されていてまるで刀身自体が炎を纏っているように見える。

 デザイン性を最重視しているのは否めないが、強そうであるのも間違いないだろう。

「確かに超クールだな」

「えへ、えへへへへへへへ、ジュルッ」

 チャミィは興奮のあまり涎まで垂らしている。拾った武器が攻撃力10倍なんてダメージを想像するだけで恍惚としてしまうのはよくわかる。



 それぞれ、まあまあ強い武器。

 弱体化で使えなくなった魔導書。

 とんでもなく強い武器。

 とアタリハズレがハッキリと分かれた結果となった。



「では、参ろうか」

 やっとのことでニコラスが平静を取り戻し、まだそれで行くんだって気もする賢者キャラで先導する。

 近付いてみると壁の大穴は接触判定の無い黒い幕で蓋をしてあるだけのようだ。これはこの先は特別な空間という境界の強調。



 つまり、ボス部屋だ。

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