第3話

 にしても、あのビニール袋、大きかったな。

 服だけにしては、やけに大きいような?それに、あんなにガッチリ縛る必要あるか?まだ他にもゴミが出るかもしれないのに。おまけに、二重になってたっぽいし。しかも今時、黒いビニール袋って。……うちに買い置きなんかあっただろうか。半透明のゴミ袋なら買い置きはあるけど。彼女、わざわざ買いに行ったのか?


 シャワーを浴びても、すっきりするどころか、洗い流してしまいたいモヤモヤとした気持ちは大きくなるばかり。


 それに、あの子達をいったいどこに預けたっていうんだ?そりゃ、お隣の老夫婦には懐いているから、頼めば預かってくれないことはないだろうが。

 俺だってまだお願いしたことが無いのに、それほど顔を合わせた事の無い彼女の頼みを、すんなり聞いてくれるものだろうか。まぁ、あの子達を見れば、俺の犬だって事くらいは分かってくれるだろうけれども。

 いや、待てよ。

 もしかしたら、どこかのペットショップかペットホテルに預けたのかもしれない。犬の扱いに慣れている人ならば、あの子達をケージから出して連れて行く事くらい、簡単な事だろうし。

 もともと、おとなしい子達だからな。いい子にしているといいのだが。

 それにしても困ったものだな。

 この先彼女と一緒に生活するようになることを考えると……いい加減、彼女に懐いて貰わないと困るんだが。


 シャワーを浴び終え支度を整えると、ジャストなタイミングでテーブルの上に夕飯が並ぶ。


「出来立てだよー!さ、食べて食べて♪」


 食欲をそそる匂いに、腹の虫が鳴く。


 気になることは後で彼女に聞こう。今はとりあえず、目の前のこの旨そうなハンバーグを腹に収めたい。


 早速テーブルについた俺に、彼女が自信に満ちた笑顔で言った。


「一応合い挽きで作ったハンバーグだよ。でも、私もまだ食べた事ないし、あなたも多分食べたこと無いお肉だと思うから、口に合えばいいんだけど。解体も後処理も抜かりないから、臭みは無いと思うんだ」


 目の前には、湯気を立てて旨そうな匂いで俺を誘うハンバーグ。

 リビングの隅には、主のいないケージがふたつ。

 そして。

 キッチンには、固く口を縛ってある大きな黒いビニール袋。


 その時、唐突に俺の脳裏に有り得ない嫌な想像が思い浮かんだ。


『なかなか獲物が現れないと、狩り場から早く引き揚げちゃう時もあるんだよね。残念なんだけど』


 以前、彼女はそんな事を言っていなかっただろうか。

 そして今日、彼女は狩りから予定より早くに戻って来ている。

 と、いうことは。


 ちょっと待て。

 ……これ、一体何の合い挽き肉なんだ?


 得体の知れない恐怖を感じた俺は、相変わらず湯気を立てながら食欲をそそる匂いを放ち続けるハンバーグを前に、ゴクリと唾を飲み込んだ。


【終】

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ハンバーグ 平 遊 @taira_yuu

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