向かい合わせで背伸びしよう
薄いカーテン、窓から差す光が埃っぽい教室の空気を透けて見せる。
「キラキラしてるなぁ」
「埃っぽいだけでしょそれ」
香ばしいような埃っぽいような匂いも、廊下側の私の席から直線、反対側の窓側の席に座る好きな人。
短いスカートから出した足はド派手な膝掛けに包んで椅子の上に三角に折り曲げている。
廊下側の窓にもたれながら、サボりの友人にアイコンタクトで「気をつけろ〜」と念を送って(どうせ伝わってないけど)廊下をこっそり歩くバーバリーのマフラーを見送った。
反対側の窓側の席、ふと目が合ってお互いに何となく気まずくなって目を逸らす……と思ったのに、
(えっーー、笑った)
どちらかと言うと可愛い、端正な顔立ちで良くモテる彼がちょっと苦手だった。
彼もそうだと思っていたし、まさか笑顔を向けられるなんて思わなくて、大きな目から目を逸らせないでいた。
一瞬、吸い込まれるような不思議な感覚がして周りの声が全然聞こえなくなった。
別に何とも思っていないただのクラスメイト、しかもちょっと苦手な。
友達の声にハッとして今が美術の自習で課題をしている時間だって思い出して手元の小さい彫りかけの判子をちびちびと彫り進めた。
何となく落ち着かなくて手元に夢中になるフリをした。
「それ、面白いの?」
「へ……うん」
「頑張って」
目の前に立った彼があまりに近くて頬が熱い。
見下ろした大きなキラキラした目が頭から離れなくなって、苦手だった筈なのに背中を目で追いかけた。
そういえば彼だって私が苦手だった筈なのに、ほんの一瞬何かが起きて私達の苦手は消し飛んだみたい。
「なんか良い匂いする」
「ーっ、近、えっ」
「あーごめん、つい良い匂いだから」
「香水、だよ」
そこからはもうなし崩しに彼に魅了されて、聞いた事ない歌手のCDの貸し借りに、偶にする口喧嘩とか、二人きりで話す時間とか……
「あれ、アイツってアンタの事好きじゃない?」
「派手な子嫌いだって言ってたでしょ」
「でも……、絶対お似合いだと思うけど」
「んーん、寧ろ好きになっちゃったのは私の方なんだよね」
何となく向けた視線、また目が合って
また吸い込まれそう
(え、また笑った)
もうちょっと、あともうちょっと
チャイムが鳴ったら絶対言おう
あなたを好きになっちゃったって
「ねぇキスってした事ある?」
「大人のヤツはまだ……」
「じゃあさ、練習、しても良いよ?」
「じゃあさ、俺の初めての責任取ってよ」
素直じゃない私達の、大人じゃない恋が始まるーー
微熱 ー恋の短編集ー 深月 アモル @amor_miduki
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