微熱 ー恋の短編集ー
深月 アモル
溶けたアイスと移り気
ジリジリと肌を灼く夏が好きだ。
じんわりと湿気立つ肌から時折ツーっと落ちる汗の感触が不快で眉を顰めた。
けれど、他愛もない話をしながらチープな棒アイスを齧る唇と時折それを舐めとる舌も、暑いからと髪を流した時に見える首筋もぜんぶ夏のおかげだから、夏が好きだ。
俺がこんなコトを考えているなんて思ってもいないだろうコイツはいつも通りの何とも思っていないような表情で真っ青な空を見上げている。
「ねぇ、蝉ってさ。ミンミンじゃなくてシャワシャワシャワーって聞こえない?」
「どっちでも良くね」
「ん、けどまぁ蝉も不本意だろーなぁと思って」
「ふは、んだそれ」
そもそもシャワシャワも言ってるつもり無いんじゃねーの、なんて思ったけどコイツがそう思ってんならそれでいっかって飲み込んだ。
「あ」
棒アイスの最後のひと口。
ひと口ずつか小さいから尚更、棒の真ん中に残った小さなソーダー色がポタリと溶けてアイツの手の平の上に落ちた。
「頂戴」
「は……」
下から手を重ねて、舐め取るようにして奪う最後のひと口はよく知ったソーダ味だったけど、くすぐったかったのか少しだけ身を震わせたコイツが見られただけで極上のご馳走食った気分になった。
(ちょっとは意識しろよ)
さっきまで彼氏欲しいなぁなんて言ってたコイツを恨めしく思った。
こっちはもう何年もずっとお前の事好きなんだけど、なんて俺の太ももで手を拭いてるコイツにずっと俺は言い出せないでいる。
「失礼だな、お前」
「舐められたもん、しかも最後のひと口」
「ごっそーさん」
「じゃあ、焼肉奢ってね」
「じゃあの意味わかんねーし」
意識されてないのはいつもの事なのに、飄々とした様子になんとなく今日はムカついて軽口を塞ぐようにキスした。
まるで囃し立てるようにシャワシャワと鳴いてる蝉の音と互いの熱い体温がよけいに夏を知らせて。
もしかしたら二人とも暑さに浮かされているのかもしれない。
ずっと踏み込めないでいた距離に居て、
ずっと言えなかった事が言えそうな気がする
アイスの所為で冷たくなった唇が丁度気持ち良くて、同じように冷たい舌を吸ったら身を震わせたのが分かった。
「ん、やめ……」
「いま、喜んだろ」
「ちがう」
下唇を甘噛みすると、ぴくりと反応して俺の胸を押し返す。
「や……」
「彼氏、俺でいいだろ」
「遊び人はやだ」
「ずっとお前が好きなんだけど」
「ーえ?」
「こんな事すんのも、初めてだしずっとお前に片思いしてんだけど俺」
「嘘だよ、いっつも女の子といるじゃん」
「あれは、モテてるだけ」
「自分で言うな」なんて笑ったコイツに拒絶されなかったことを少しだけ安心してから、少しだけ調子に乗る。
「お前はずっと、俺といるじゃん」
何で俺じゃだめなの?畳みかけるように言う。
格好つけたいのに、絡め取った手に力が入って緊張してるのはきっともうバレてる。
「俺じゃ嫌?」
「嫌じゃ……ないかも」
どうしようって顔に書いてあるままそう言ったコイツには悪いけど押すなら今しかねーなって感じてもっかい触れるだけのキスをして、聞く。
「ほんとに?」
「ん……」
(でも、待てよ……)
あの人が格好いい、誰々が好きかも。
惚れっぽいコイツは時々そう言って報告してくることがあるけど持って半日、悪くて三十秒。
進展どころか、連絡先さえ知る事もせずに、本当に興味あった?ってレベルでいつも忘れたり熱が冷めてしまう所謂、口だけならぬ言うだけ女子なのだ。
自分の一世一代の告白(暑さと勢いのおかげだけど)を明日には「ごめん、勢いだったかも」なんて言われる可能性だってある。
まぁ多少、いやかなり強引に迫ってはいるがなるべく冷静にならずに(振られたくないから)なるべくがちで俺のこと受け入れて欲しい、今すぐ。
「いつものじゃねーだろうな?」
「いつもの?」
「すぐ忘れんだろ。好きとかいう癖に」
「あんたのこと忘れると思う?」
「今思ったんだけど」なんてまた軽薄そうに言い出すこいつに「状況わかってんの」って聞きたくなるけど、とりあえず頷いておく。
「ずっと好きだった気するかも」
「これが気の所為でももうアンタのコト好きだから、その辺はどっちでもいいかなぁ?」
「……どういう質問だよそれ」
「なんかさ、触れられて思ったんだけど」
「ん」
「他の人にはスマホも触られたく無いのに、アンタとはもっとちゅーしたいなって」
相変わらず意味わかんねー、けど
「めっちゃ可愛い」
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