第113話 幸せになった悪女
アリスはウインクをするとその場をさっさと離れていく。するとアスモがやってきてドレスのことを聞いてくる。
「莉里亜様、ドレスのことを聞きたいのですが…。今の美女だれですか…?」
「アリスさんです、ランウェルさんを説得してくれるらしいです」
アスモはアリスを見つめていると莉里亜は彼女のことを伝える。
「兄様も本当に結婚を許さないようですから、嫌になりますね。莉里亜様と結婚するのは自分だと思っているようです」
「そうなんだ。てかアスモさんとランウェルさんと本当のご兄妹なんですか??」
「仕事ではランウェル様と言っていますが、血の繋がった兄妹ですよ」
「本当なんだ…」
「もしかして、信じてなかったのですか?!」
「東国での嘘だと思ってました…」
「ついでですが、爽呪は私の伴侶です」
「「ええええええっ???!!!!」」
突然のカミングアウトに二人は声を揃えて大きな声が出る。アスモはその声に驚いたのか目を丸くさせる。
「伴侶って…付き合っているで間違いでは無いんですよね??」
「付き合っていると言うより、夫婦です。夜の営みもちゃんと…♡」
身体をくねらせるアスモの姿に莉里亜は魂が抜けそうになってしまう。
「というのは冗談で…莉里亜様???!!!!」
「お嬢様!!!!しっかりしてください!!!」
しばらくの間、莉里亜は戻れずにいると、はっと目を覚ます。その後、三人はドレスを見るために街に向かった。魔界と言われてかなりおどろおどろしいところだと思っていたが、景色も人もほとんど人間と変わらない。逆に居心地の良いところとなっている。
ーーーーーーーーーーーーーー
莉里亜のドレスを選び終わると三人は帰路につく。莉里亜たちが滞在している屋敷に戻り、部屋に入るとどうやら話し合いは終わっていたらしい。
「ただいま〜」
「莉里亜!!!俺ら結婚できるぞ!!!」
「えっ…本当に???!!!」
「あぁ、アリスさんがランウェル様を説得?してくれたんだよ!!!」
「今なんで疑問になったの??」
莉里亜はタツキの言葉におかしいなと思い、彼に訊くがタツキからの返答がない。ハンスとガクドを見つめるが二人も目を合わせてくれない。
「それ、本当に大丈夫な説得なんだよね???」
「…うん」
「お兄様声小さいですね」
「あれ、説得と言っていいのか…わかんない」
「尋問とも…言えるのかな…?」
「なにそれ!!アリスさん?!」
「あの人ならアルプトの部屋のところに行ったはずだよ」
「そうなの??今行ってもいいかな?」
莉里亜は振り返りアルプトの部屋に向かう。それについていくようにウルファも後を追いかける。二人は歩いているとアルプトの部屋から話し声が聞こえてくる。
『アリス様、あなた様が来る必要なかったのでは??』
「??」
莉里亜は止まるとウルファもその後ろで止まる。莉里亜は聞く耳を立てて、中の会話を盗み聞きをする。
『いいじゃん!面白そうだったんだもん』
『そういう話では…』
『でも姫ちゃん、本当に危険だということわかってよ。でも、面白そうだから…だけじゃないでしょ』
『まぁ、そうだけど。あの莉里亜って子、妙な気配を感じてたから…』
アリスの声が途切れて莉里亜は自分たちがいることがバレたのではと感じるが、そうではないらしい。
『珍しいね、あんたから声かけてくるなんて。なに?あ、動きあったんだ。なら場所移動しな、あの場所はどうせ仮住まいとして使ってただけだし。もぬけの殻にしてね。バレたらやばいから。ベラ、あの子守ってやりなよ』
『はい、姫様』
中から声が聞こえなくなるとアルプトは顔を出してくる。
「莉里亜ちゃんは何しているの?」
「アリスさんに聞きたいことがあったのですが、帰っちゃいましたか?」
「今さっき帰ったよ。結婚式ならあの人出ると思うよ、今ちょっと野暮用で帰っただけだからさ。あと、今聞いた話は誰にも言わないでくれると嬉しいな」
アルプトは右の人差し指を口の前に持ってきて黙っているようにと言ってくる。莉里亜は頷いてそれに同意する。それよりバレていたらしい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
数日後、自室で真っ白なウエディングドレスに着替えている。
「リリィ、きれいだよ」
様子を見にやってきてくれたガクドに鏡で顔を確認して莉里亜は頷く。
「ありがとうお兄様」
莉里亜は笑顔を向けるとアスモがメイクをしようとしてくる。
「リリィ、お前まだメイクしていなかったのかよ…」
「うん、なにしていると思ったの??」
「あぁ、してると思った」
「本当はしてないんだよね〜〜私の顔ってきれいだからかな??」
「そうかもしてないな。リリィ、幸せになってくれよ??」
「もちろんだよ!!」
ガクドは莉里亜の部屋を出ていくとアスモはメイクをしていく。まさか姿がもとに戻るとは思っていなかった莉里亜は今までの出来事を思い出すように考える。この世界に来た時はガクドにもハンスにも嫌われていた。とても冷たい態度、今思い出すと身体が震えてくる。
それなのに今はあんなに優しく接してくれる。二人とも、本当はリリアンのことを一番に考えてくれているからこその態度だったのかもしれない。ハンスの場合、リリアンのことが可愛いすぎてのあの反応なのは今でも笑えてくる。
使用人の人たちは優しい人が多くいた。とくにメリーはすごく優しかった、あの屋敷を追い出されたら、行くところがないと言っていたが、最終的に殺される形にしてしまった。精霊のみんなとも、また会うことができるかな。キリナは殺されてしまったのかな。それが心残りだな、ヘルミーナもカーラも優しくしてくれた、そういえばアルメーレンさん生きているのかな?あの人絶対しぶといと思う。ギルくんはなんでか知らないけどダンゲルさんが連れてきていた。先に避難させていたのかな?ベンゼルは悪魔が取り憑いていたからとっくに死んでいたんだろうね。
今日までたくさんの人達と出会ってはほとんどを失ってしまった。だけど、もう後戻りはしない。この物語ともかなりかけ離れた物語にしてしまった。
ヒロインの娘はヒロインから降りて普通な生活に戻った、そして悪女は誰とも婚約しない、全く新しい人と結婚する。
「莉里亜様、メイク終わりましたよ〜そろそろいきましょう」
莉里亜は立ち上がるとバージンロードに向かう。真っ白なドレスを後ろから使用人の人たちが持ってくれる。会場へ向かうとそこにはハンスが父親役として待ってくれている。
「エスコートさせてくれ」
「お父様…!はい、お願いします」
莉里亜はハンスの腕に自分の腕を通すとゆっくり歩いていく。向かった先にはタツキがおり、ハンスから莉里亜は離れる。
「娘のことを、頼むぞ」
「もちろんです」
莉里亜の手を取るタツキは緊張しているのか手が震えている。莉里亜はその手に思わず笑顔がこぼれる。牧師役のアリスと目が会い莉里亜は思わず笑ってしまいそうになる。牧師らしい言葉を並べるアリスに本当に祝福してくれているのだと感じる。
「これで、牧師である私からのあいさつとさせてもらいます。これは神であるアリスからの祝福です!!」
アリスは指を鳴らすとどこからともなく祝福のライスシャワーが降り注ぐ。そのことにランウェルたちも驚き持っていた花を二人に向かって投げる。全員からは拍手が飛び、タツキと目が合う莉里亜は笑顔になって二人は口づけをする。この幸せが、永遠に続くことを願って。
「タツキ、愛してるよ」
「俺もだよ」
みんなが知っている悪女が記憶喪失になりました! 太刀川千尋 @tihiro564
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます