砕け散れ、現実


 憧れの男子蒼斗へ、自作の小説を贈る葉月。
 それは、いうなればラブレター替わりなのだが、長編小説一作というのは少々重い。気持ちも分量も。

 そして、蒼斗に感想を聞く葉月。だが、書き手の想いと読み手の感想には齟齬があり……。

 ここからが凄い。
 内容に関して二人が喧嘩すればラブコメになるが、才能のある書き手である葉月は、それを現実とリンクさせる。いや、彼女は創作と現実において、創作の中により多くその本体があるかもしれない。
 小説というラブレターを送り、それが媒体として、作者から小説を通して読者へ、自分が願う形で気持ちが伝わらなかったことを失恋と同義と考えるのか。
 いや、事実失恋と認識したのかも知れないし、葉月にとっては失恋の方が些細なことなのかも知れない。

 この虚構と現実の狭間で、どちらかというと虚構の中に深く沈み込んで立つ葉月に、その才能とともに嫉妬すら感じた。

 クライマックス。それが望んだようにならなかった葉月が、まさかこのまま世界を破滅させてしまうかという危うい状態にどきりとした。
 が、現実には、わずかに空が破れるのみ。
 しずかに降り始める雨の描写がほっとさせてくれる。そして、ハートマークの陳腐さが、自分自身への嘲笑すら感じさせてくれた。


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