強烈なビジュアルと硬質な科学用語が織りなすSF短編

主人公「俺」は銀河デリバリーサービス・アマゴンの配達員。
いわゆる底辺層のハードワークで、宇宙では貧富の格差がスケールアップしている現実もサラッと描かれている。
なかなか切ないが、その切なさを吹き飛ばすほどビジュアルのインパクトが強烈だ。とくに冒頭の

「アラベル星に配達した時は千年に一度の流星祭の日で、虹色の流星の中をサーフィンさながら船を操って大喝采を浴びたんだ。あれは一生の思い出だよ」

はすばらしかった。
有名な「SFは絵だ」という言葉を思い出した。

「逆境」がテーマの短編で、中盤からその主題が出てくる。
俺の宇宙船は宇宙嵐に巻き込まれ辺境の星に不時着する。船はこわれてスマホも圏外。眼前には不毛な砂漠が広がる。俺は死を決意して禁忌のアボガドをかじる。
するともう一人の俺が出現し、砂漠の海を泳ぐ金色のイルカが現れる。
ここのビジュアルも強烈だ。
俺は砂から出てきた帆船に乗り金色イルカを追う……

SFにはいろんな楽しみ方がある。
たとえばビジュアルイメージを楽しむ読み方。
それから硬質な科学用語を楽しむ読み方。

「時空の狭間」「並行情報集積体」「マリル仮説」

正直その意味はよくわからないが(申しわけない)、これらの言葉を見ていると、名前を知らない不可思議な鉱物を間近に見ているような、そんなクールな読みごたえがあって楽しかった。

タグに「大どんでん返し」とあったので楽しみにしていたら、ラストでまったく予想外の大どんでん返しがあって爆笑した。
ボンゴレ☆ビガンゴさんはもしかしたら落語がお好きではなかろうか?

自分のような老兵がこれほど楽しめるのだから、若い人が読んだらもっと楽しめると思う。すばらしいSFでした。