第14話 絶対に負けられない戦い
騎馬戦のルールについて説明がなされた。
上に乗った騎手が、
最後に残った一騎が源氏か平家で
説明役の市の職員が最後に付け足す。
『基本的に何でもありです。相手にケガさえ、させなければ』
その言葉に参加者がざわつく。
動揺が広がる中、源氏側の義経と弁慶は不敵な笑みを浮かべている。
一方の大志も「フン。望むところだ」と、ニヤリとする。
そして『グワーン!』というドラの音が開始の合図となった。
平家の先陣を切って大志が、敵のど真ん中に突っ込んでいく。
対面する源氏の騎馬が左右と正面の三方向から包囲網を敷こうと接近してくる。
そこで大志が「フン!」と、右足を高く上げて弧のようにハイキックを放った。
「うわっ!」「むあっ!」「ひいいぃ!」
刃物のような鋭い蹴りの軌道に腰を抜かす源氏の騎馬たち!
ちょうど三騎が同時に尻もちをつくように、べしゃっと後ろに潰れた。
そして鞍上の生徒がコロコロと転がり落ちて、三騎ともあえなく失格!
大志の蹴りを見てもなお「こいつ!」と、
大志は左足のローキックを左から来る先頭の男の膝裏にコツンと軽く当てる。
続いて右側に身を寄せて、長い右脚で右方向から来た先頭の男の足を引っ掛ける。
一瞬の動きに相手は何が起こったのかわからず、ほぼ同時に『グシャ』『グシャ』と騎馬が崩れ落ちる。
勝春と鼠先輩は大志の激しい動きについていくので精いっぱいだ。
「アワワ! 手が、手が離れそうダヨ!」
「おっとっと、からの、何じゃこりゃぁ!」
鞍上のカズは大志の首にしがみついてしまう。
「たたた、大志! 激しすぎ! ボクが落ちちゃうよ!」
だが、カズの泣き言に大志は耳を貸さない。
「勝春にしがみついておけ」
源氏の騎馬が左右から同時に迫る。挟み撃ちのつもりだろう。
「こいつを潰せ!」
「俺らで叩く!」
しかし、大志は慌てる様子はなく、左足を軸に低く構えると、コンパスで円を描く要領で右足で弧を描く。
源氏の二騎は足を払われて同時に大きくバランスを崩す。
「うあっ!」「ぬひいっ!」
さらに大志のハイキック!
それはフェイントだが、腰を抜かした源氏の騎馬は戦意喪失気味に崩れ落ちる。
大志は、ハイキックと足かけで来る敵をバッタバッタとなぎ倒していく。
崩しきれなかった騎馬には味方の騎馬が接近して難なく鞍上の鉢巻を奪う。
一方、左方向では源氏勢が優勢だ。
弁慶の体当たりで平家の騎馬が吹っ飛ばされまくっている。
さらには弁慶の騎馬の鞍上である義経が大ジャンプして、単独で平家の騎馬の上をピョンピョンと連続で飛び移り、鉢巻を次々と奪っていく。
それを見て勝春が
「アンナのアリかよ!? 騎馬から離れてるジャン!」
カズが、ガクガク揺すられながら言う。
「じじじ地面に足が着かなきゃ、セセ、セーフなんじゃないの!?」
大志はなぜか感心している。
「おお! あれが有名な義経の
義経が壇ノ
大志は歴史ものが好きなのだ。
義経は平家の騎馬を
そして弁慶の騎馬に戻ってくる。
カズが状況を分析しながら焦る。
「押されてる! 源氏はまだ三分の一ぐらいしか削られていないけど、こっちは明らかに半分を切ってる!」
大志の活躍で源氏の騎馬を
勝春が叫ぶ。
「粘ろうヨ! 多分、最後はあのデッカイ奴との一騎討ちダヨ!」
カズも大志の耳元で大きな声を出す。
「大志! 前に出過ぎないで! 生き残るように立ち回ろう!」
しかし、その
なんと、大志の姿を認めた弁慶の騎馬が猛スピードで接近してきたのだ!
早すぎる一騎討!
カズは心の準備が出来ていなかった。
あの義経の身のこなしで飛んでこられたら防げるだろうか?
それ以前に弁慶の体当たりの衝撃に耐えられるのか?
「ぬぉおおお!」と、弁慶が鬼の
「させるか!」と、大志がカウンター気味にハイキックを繰り出す。
大志のハイキックを肩で受ける弁慶。
「ぐぬっ!」と、顔を顰めたものの、倒れる気配は無い。
大志の表情が歪む。
「クッ! 高速道路の支柱を蹴ってる時と同じ手応えだ」
それを聞いて勝春が「ホントに蹴ってたのかヨ!」と、呆れる。
弁慶が倒れまいと踏ん張ったところで、大志の騎馬が離れようとする。
大志は、距離を取りながら弁慶とその鞍上を睨みつける。
「問題はどのタイミングで奴が飛んでくるか……勝春! カズ! 気を付けろ! 奴は飛んでくるぞ!」
カズが「まさか!? あの態勢で!?」と、言った次の瞬間だった。
弁慶の頭の後ろから何かが
大志は「来る!」と、身構える。
飛び上がったのは義経だ。
義経は体操選手のように空中で三回宙返りした。
大志が距離を取ろうとして左に寄る。
「よし! これなら届かな……何!?」
義経は、大志の動きについてこれずにタイミングが遅れた鼠先輩を狙ってきた。
そして、その頭を踏み台にしようと左足を乗せた。
大志が「しまった!」と、振り返るが間に合わない。
義経は鼠先輩のパンチパーマを踏んで「はいっ!」と、飛び上がる!
と、思いきや、その瞬間、ずるっと盛大に足をすべらせた。
なぜなら、鼠先輩が「おうっ?」と、急に下を向いたせいだ。
義経が「うむっ!?」と、前のめりに頭から大志達の騎馬に突っ込んでくる。
義経の頭が、ちょうどカズの目の前に!
カズが「今だ!」と、義経の鉢巻を引っ手繰る。
弁慶が「ぬぉおおお!」と、突進してくる。
タックルでカズを落下させて、相討ちを狙ってきたのだ!
「させるか!」
大志は騎馬を組んだまま、左足を振り上げて突っ込んできた弁慶の顔面にカウンター気味の前蹴りを叩き込んだ!
「はがっ!?」と、弁慶の突進が止まる。
鉢巻を奪われた義経は、空中でクルクルクルっと器用に膝を抱えて三回転すると、着地を決める。
だが悔しそうな表情で「なんという不覚!」と、
弁慶と義経を失った源氏の軍勢は、そこからあっという間に失速した。
結局、平家は、大志達を含む六騎が生き残った。
審判員の職員が宣言する。
『勝者! 平家!』
うぅおおおおおお! という地鳴りのような歓声。
平家側の生徒、見物人が一斉に喜びの声を上げた。
反対に源氏側は、お通夜状態。
カズは汗をぬぐいながら騎馬を下りる。
委員長のカミちゃんが駆け寄ってくる。
「岩田君、素敵でしたわ! 白馬をしつけたイングランドの王子さまみたい!」
相変わらず意味不明な例えにカズは「あ、ありがとう」と、引きつった笑顔で答える。
勝春が首を回しながら苦笑いを浮かべる。
「参ったヨ。大志の激しい動きに付き合あったから身体がガタガタだヨ!」
大志が鼠先輩に尋ねる。
「おい。なぜ、あのタイミングで頭の位置をずらしたんだ?」
結果的に鼠先輩が急に下を向いて頭の位置を低くしたせいで義経はバランスを崩してしまったのだ。
鼠先輩が
「あ? 五百円玉が落ちてると思って拾おうとしたんだけどよう。違ってた」
大志が「な、なんだと!?」と、ずっこける。
「お、お前、真剣勝負の最中に何をやってるんだ!? バカモノ!」
勝春はフォローする。
「マ、マア、いいじゃないのサ。結果的に勝利に繋がったんだからサ」
カズも鼠先輩を横目に頷く。
「そうだよ。あれがなければ、確実にボクの鉢巻が奪われてたよ」
鼠先輩は後頭部を
「けど、なんだか誰かに頭を蹴られたような気がするんだよなぁ」
そこで3人が同時に否定する。
「気のせいだと思う」
「気のせいダヨ!」
「気のせいだバカモノ」
鼠先輩は納得がいかないらしく、ブツブツ言う。
「おかしいなあ、頭痛ぇんだけどよう、絶対、誰かに蹴られたと思う」
そういう鼠先輩の後頭部。
そのパンチパーマの後頭部には、弁慶の白い足跡が、くっきりと残されていた。
とりあえず学校対決の第一弾は平家が制した。
喜びに沸く平家の人達を眺めながらカズが呟く。
「ボク達は平家を応援するために呼ばれたわけじゃないんだよね……」
カズの言う通り、ミステリー・ボーイズとしては源氏と平家のどちらかに肩入れする理由は無い。
ましてや、三人を呼んだのは加山市長だ。
大志も違和感に気付いていた。
「市長が心配していた源氏の不正や妨害工作は皆無だった」
勝春も珍しく真顔を見せる。
「なんか、すっきりしないよネ。どうして市長はオレ達を呼んだンだろ?」
カズは首を傾げる。
「そこなんだよね。市長は中立のはずなんだけど……」
平家の勝利の裏で、何か得体のしれない思惑が蠢いているような気がして、三人は気を引き締めた。
ミステリー・ボーイズ 2nd 源平合戦編 GAYA @GAYA
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