第13話 学校対決! 意外な種目?

 連続落書き事件は解決した。


 その報告を聞いて校長は安堵あんどの表情を浮かべる。

「いやはや、良かった良かった。やはり君達はプロだな」


 勝春が事後処理について説明する。

「デ、犯人たちには落書きを消して回るように指示してますからネ」


 大志が保証する。

「逃げたりサボったりしたら、お仕置きすると伝えている」


 大志の強烈なキックを見せつけられて言うことを聞かない者は居ないだろう。


 校長が尋ねる。

「いやはや、それで、犯人の中にうちの生徒は居たのかね?」


 それにはカズが答える。

「三人がこの学校のOBでした。残る一人は二年生です。でも、本人は深く反省してつぐなうつもりなので、処分は勘弁してやってください」


「いやはや……うーむ。警察沙汰にはなっておらんとはいえ、何のペナルティもないというのは……」


 大志が腕組みしながら校長を見下ろす。

「だから俺達が厳しく指導している」


 カズも忠告する。

「せっかく、おおごとになる前に水面下で解決したのに、処分となると事件が明るみに出てしまいますよ?」


 勝春はウィンクしてみせる。

「大丈夫ですヨ。犯人は反省して謝罪と原状回復げんじょうかいふくして回るって噂を流しておきますからネ」


「いやはや。そういうことなら了承した。それよりも、今日の午後の対決だよ」


 校長が落ち着かないのは今日の二時開始とされている学校対決が迫っているからだ。


 カズが尋ねる。

「それで、未だに対決の具体的な内容は示されていないんですか?」


「いやはや。この前のFAXだけなんだよ」


 加山市長からの指示は簡潔だった。

『十四時に全校生徒を体操着で平家町グランドに集合させること』


 あと三時間ほどしかない。

 焦る校長。

 寝不足を隠せない三人組。


 大志は欠伸あくびしながら言う。

「いかんな。このあと昼飯を食ってしまうと眠くなるな」


 カズが意外そうな顔つきで尋ねる。

「いいの? 今日の定食はコロッケ定食なのに?」


 大志の目の色が変わる。

「なっ! それを早く言え! 腹が減ってはいくさができんからな」


「ナーニがいくさだヨ! 大げさだナ!」 


「いやはや! 大げさではないぞ。この対決に負けた学校は統廃合とうはいごうされてしまうのだ! 絶対に負けられない戦いなのだよ」


 そうだった。三本勝負で負けた学校は廃校になってしまう。


 校長室に何とも言えない空気が充満した。


     *     *     *


 指定の時間に平家学院の全生徒が河川敷のグラウンドに集まった。


 休みや見学の生徒まで参加させることは無いとは思われる。

 だが、どんな対決をするのか、さっぱり分からない。


 河の向こう側では源氏高校の生徒が集まっているのが見える。


 赤い腕章わんしょうを付けた市の職員が人の整理を行っている。


「平家学院の生徒はこの線より川上に下がってください! 見学の方々は黄色いテープより外に出てくださぁい!」


 グラウンドを二分する形で平家学院の生徒が全体的に北の方に移動させられる。


 スピーカーから職員の注意事項が聞こえてくる。

〔まもなく、源氏高校の生徒が橋を渡ってきます! 見物人は物を投げないように!〕


 グラウンドの北側や河川敷の土手には、昼間にも関わらずこの対決を見ようという平家の見物客であふれかえっていた。


 勝春が唸る。

「ウーン、凄い注目度だネ」


 カズが苦笑いしながら説明する。

「母校の存続がかかっているからね。地元の人は、みんな平家学院の出身なんだよ」


 大志が同意する。

「うむ。町に学校がひとつしか無いとなると仕方があるまい」


 源氏高校の生徒たちが三列になって橋を渡ってくる。

 百メートルほどの橋を無言で進む行列は不気味だ。


 それを迎える平家町の面々も冷たい反応だ。

「来たぜ。源氏の連中が」

「くそっ! 見てるだけでムカムカするぜ」


 平家の人達は憎悪を隠そうともしない。

 職員が『物を投げないで』と警告したのは、あながち間違いではなかった。


 異様な雰囲気の中、平家町グランドに源氏高校の生徒と教師の総勢約四百が乗り込んできた。


 グランドの中心はサッカーコートだ。

 ゴールマウスは撤去されているが、コートのセンターラインによって、北方向の川上が平家学院、川下が源氏高校の生徒でひしめいている。


 防波堤に停まっている選挙カーのような車から加山市長が降り立った。

 そして車の上の演説台に上る。

 まるで選挙の街頭演説みたいだ。


 車に備え付けのスピーカーから市長の第一声が響き渡る。

『ええ~ 皆さん! 本日は、よくお集まりいただきました!』


 ピリピリしたムードの中、軽薄な加山市長の第一声は明らかに浮いていた。

 

 加山市長の隣に控えるスーツの女性が「早く要件ようけんを!」と、市長に注意している。

 市長の『おもり』をしている例の秘書だ。


『わかってるよ佳代ちゃん。ボカァ、少しでも場をなごませたいと思ってねぇ』 

『ボクは止めてください!』


『あ~ とにかくアゲていこうと』

略語りゃくごや若者言葉もつつしんでください!』


 大志が呆れる。

「相変わらずだな。夫婦漫才めおとまんざいか」


 カズも引きつった笑いを浮かべる。

「こんな調子でちゃんと仕切れるのかな」


 選挙カーの上で、しばらく市長と秘書のやりとりがあって、ようやく対決内容が発表されることになった。


 加山市長が胸を張って宣言する。

『それでは、第一戦の対決内容を発表します! テーマは体力勝負!』


 生徒たち、学校関係者、見物人に緊張が走る。

 皆が固唾かたずをのんで市長の次の言葉を待つ。


『最初の対決は騎馬戦! 30対30。最後の一騎になるまでで戦って貰います!』


 意外な競技名に驚きの反応が広がった。


 ざわつく面々のリアクションをよそに、市の職員たちが黙々と準備にとりかかる。


『各校は四人一組の騎馬を30騎、選抜してください! そして上に乗る人はこの鉢巻をしてください!』


 短時間に参加する生徒を選抜しなくてはならない。

 校長は「いやはや! いやはや!」と騒ぐだけで役に立たない。


 結局、教師と生徒たちが慌しく代表者を選抜し、四人組の騎馬を作っていく。


 当然、校長の要請でミステリー・ボーイズの三人も参加する。


 大志が困った顔をする。

「困ったな。カズが上に乗るのは確定として、あと一人足りない」


 勝春が申し出る。

「あ、だったら誰か連れてくるヨ。友達なら沢山作ったからサ!」


 その時、誰かが三人に声を掛けた。

「いいや、それには及ばん!」


 勝春の提案を否定した声の主……。


「オイラがお前らに力を貸すぜ!」

 そう言って三人の前で黄色い歯をキラーンと見せるのは鼠先輩だった。


 大志が「要らん」と、拒否しようとしたが、鼠先輩は素早く大志の肩に左手を置き、右手で大志の手を取った。

「さ、乗ってけ!」


 鼠先輩に促されたカズはドン引きしている。


 呆気に取られている三人をよそに鼠先輩は市の職員に声を掛ける。

「このメンツで行くぜ!」


 すると職員が「はい。確認! こちらに移動してください!」と、この組み合わせを認定してしまった!


 大志が狼狽ろうばいする。

「な、何を勝手なことをしている! 俺たちは使命があるんだぞ」


 だが、鼠先輩は、まったく気にしていない。

「オイラ、いい仕事するぜ? イケメン四人組で注目の的だぜ!」


 イケメン四人組? 数が合わない。


 勝春がぼやく。

「参ったネ。いきなりのハンデだヨ……」


 結局、大志が先頭で右側が鼠先輩、左が勝春、そしてカズが上に乗る形で参戦することになってしまった。


 それぞれの高校から選出された30組の騎馬がセンターライン付近に集結する。


 参戦しない生徒たちはサッカーコートの外に出された。


 源氏高校の騎馬を見て大志が気付く。

「むぅ……やはり出てきたか」


 カズが尋ねる。

「知ってる相手が居るの?」

「ああ。弁慶と義経だ」


「え? なんだいそれ?」

「あのガタイの良い男が真中に居るだろう。その上に華奢きゃしゃな男が乗っている。あいつらとは、この前、遭遇した」


 大志が単独で橋を渡り、源氏町に入った時に対峙した義経と弁慶。

 この二人が出てくることは予想していた。


 大志が気合を入れる。

「面白くなってきやがった。奴らは只ものじゃない」


 その言葉に勝春が緊張する。

「なんか雰囲気が全然違うネ。あの男、凄くタフそうだヨ」


 カズも警戒する。

「上に乗ってる牛若丸うしわかまるみたいな人。落ち着いているけど殺気さっきがあるね」


 大志が注意を促す。

「曲芸師みたいに身軽な奴だ。気を付けろ」


 だが、鼠先輩はマイペースだ。

「やばい! 両手がふさがってるからケツがけねえ!」


 勝春とカズが「はぁ?」と、脱力する。

 大志は大きな溜息をつく。


 大志との短い対峙で他に類を見ない戦闘能力を見せた義経と弁慶。

 その二人がいるとなると、ただの騎馬戦では済まないように思われた。


 そして統廃合を賭けた学校対決の第一弾が、ついに幕を開けた。

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