第12話 実行犯をお仕置き

 落書き犯一味は、逆切れで攻撃してきた。

 リーダー格の金髪パーマが右のパンチを狙って突っ込んでくる。


 大志は、ポケット手を突っこんだまま、直前ですっと身を引く。


 大志に突進をかわされた金髪パーマが派手にすっ転ぶ。

 それもコントみたいに頭からアスファルトに『ズザザッ』と、突っ込んだ。


「いでっ!」と、金髪パーマは顔面を強打した。


 周りが唖然としていると、金髪パーマは、ゆっくり立ち上がる。

「へっ……スピードを出し過ぎちまったぜ」


 金髪パーマは、大志の立ち位置に向き直ると、性懲しょうこりもなく同じ動作で突っ込む。

「うぉおおおりゃああ!」


 だが、大志は闘牛士のように華麗にスルー。

 まるでVTRのように金髪パーマが道路にヘッド・スライディングする。


 それを見て勝春がカズに耳打ちする。

「大志の奴、やってるネ」


 カズはメガネの位置を直しながら頷く。

「うん。あの転び方、足を引っかけてるだけじゃなさそうだ」


 それでも金髪パーマは立ち上がって鼻血をそでぬぐう。

「ちっくしょう! ビビッて逃げ回りやがって!」


 彼はそう言うが、大志はほとんど立ち位置を変えていない。

 しかも、相変わらず涼しい顔だ。


 金髪パーマは諦めない。

「ぶっ殺すぅうう!」と、三度みたび、拳を握り締めて突進する。


 その動きを見切っている大志は、ギリギリでそれを躱しながら右足の甲で金髪の足元を引っ掛ける。

 と、同時に超高速で右の足先を引いてかかとで金髪の膝裏をコツンという具合に押し込む。


 それは『膝カックン』となって、金髪パーマの足は完全にバランスを失って、もつれる。

 そのために、上半身が勢い余って地面にダイビングしてしまうのだ。


『ズザッ』「あうっ!」


 地面と三度目のキッスをしてしまう金髪パーマ……。


 それを見下ろしながら大志が尋ねる。

「こんな所でヘッド・スライディングの練習か?」


 金髪パーマは流石に受けたダメージを隠しきれない。

「あ、あっ、あつつ……く、くそ痛え」


 ボロボロになりながらも彼はポケットからナイフを取り出した。

「も、もう、容赦しねえ! マジでぶっ殺す」


 ナイフを見せられても大志の態度は変わらない。


 それが金髪パーマの怒りに火を注いだ。

「このっ!」


 ナイフが振り上げられた瞬間、大志が動いた!


 大志は右のハイキックを繰り出してナイフを吹き飛ばす。

 その勢いでクルリと一回転、回し蹴りが金髪パーマの側頭部を直撃した。


 ナイフを持った手の痛みを感じる間もなく、金髪パーマは外国アニメの『やられ役』が、ぶん殴られたように身体を硬直させ、足元から崩れ落ちた。


 カズが叫ぶ。

「た、大志! やりすぎじゃない!?」


 大志はポケットから手を出すこともなく首をすくめる。

「は? だいぶん手加減してるぞ?」


 勝春が強張った笑みで言う。

「だろうネ。でなきゃ頭が吹っ飛んでるヨ」


 金髪パーマの連れと秋山少年は、リーダー格の惨状さんじょうを見せつけられて戦意を喪失している。


 大志が首をコキコキ鳴らしながら、秋山少年達を一瞥いちべつする。

「さて、悪いことをした時はどうするんだ?」


 失神している金髪パーマを除くメンツが顔を見合わせて「せーの」の合図で頭を下げる。

「すんませんでした!」


 大志が「こら!」と、注意する。

「たわけ! 声がデカい! 夜中だぞ。それに謝る相手が違う」


 そこで勝春が提案する。

「じゃあサ、明日以降、君らが描いた落書きを消して回りなヨ」


 カズが念のために確認する。

「君達は平家、だよね? 君達の行為は平家学院にヘイトが向けられてしまうことになるんだよ?」


 吊り目で銀髪の男が泣きそうな顔で首を振る。

「いや、そんなつもりは……源氏との対決前に盛り上げて欲しいって頼まれたから……」


 そこでカズの目つきが変わる。

「頼まれた? いったい誰に?」


 銀髪男の隣で無口な長髪青年が慌てる。

「し、し、知らない奴。報酬を出すっていうからさ」


 大志と勝春が顔を見合わせる。

「報酬だと?」

「最悪だネ。マア、想定はしてたけどサ」


 カズが少し考えるような仕草を見せる。

「うーん。となると、やはり平家学院の評判を下げることを目論んでいる人間が居るってことか」


 銀髪男は訴える。

「ちょっと待ってくれ! 俺らはOBとして後輩のモチベをアップするために落書きしてたんだよう!」


 長髪青年も言う。

「源氏最強とか、平家を討てとか、わざと対決をあおるために書いたんだ!」


 カズが呆れる。

「まあ、逆効果だけどね。てか、ちょっと考えれば分かるでしょうに……」


 秋山少年を含む四人組は、何者からかの依頼で落書き事件を起こしていたという。

 

 ということは、単に素行の悪い少年達の『いたずら』ではないということだ。

 おそらく目的は、平家学院の足を引っ張ること……。


 大志が考え込む。

「うーむ。となると、こいつらに指示していた黒幕は、源氏の関係者なのか?」


 カズが答える。

「普通に考えればそうだね。けど、何か裏がありそうなんだよね」


 秋山少年が、おどおどしながらガラス窓を指さす。

「あ、あのう、防犯カメラの映像、警察とか学校とか……」


 それを聞いてカズが笑う。

「ああ、あの天井の丸いのは防犯カメラじゃなくて火災報知器だよ」


「は?」と、秋山少年が目を丸くする。


 非常灯の光を浴びる天井の丸い火災報知器は、遠目には防犯カメラと区別がつきにくいのだ。


 秋山少年は、カズの咄嗟とっさの嘘に騙されてしまったのだ。

 しかし、時すでに遅し。


 秋山少年と、叩き起こされた金髪パーマは、連続落書き事件の犯人であることを自白した。


 はじまりは、ダンス教室についていけなかった秋山少年が、逆恨みでこのシャッターに落書きをしたことだった。


 『マカコ×』というのは、そんなアクロバットなこと出来るか! という秋山少年の心情だったという。


 だが、犯人が自分であることを隠すために、秋山少年は自宅近辺で落書きすることを思いついた。

 そして、それを夜中に実行している時に、金髪パーマに見つかってしまったのだ。

 

 秋山少年が反省する。

「下手な言い訳したのが不味かったんです。学校の連中を鼓舞こぶするためだって嘘をついちゃいました。そしたらこの人たちが手伝うって……」


 一方、金髪パーマは、謎の依頼人から「平家学院に迷惑をかけることをしろ」という命令を受けていたので、落書きに便乗することにしたという。


 金髪パーマは、謎の依頼人を銀髪と長髪に引き合わせ、落書きは後輩たちをやる気にさせる為のものだと説明した。


 その結局、吊り目の銀髪男と無口な長髪男は、平家学院のためと勘違いして、落書きに協力していたというわけだ。


 そして以降は、この四人で落書きをして回ることになった、というのがこの事件の真相だ。


 勝春は欠伸あくびしながら提案する。

「とりあえず一件落着だネ。続きは明日以降にして寝ようヨ」


 大志が了承する。

「そうだな。黒幕の正体については明日以降、詳しく話を聞かせてもらうぞ」


 それに対して鼻血の跡が生々しい金髪パーマは「喜んでぇ!」と、良い返事をした。


 夜明けまでは、あまり時間が無い。


 眠い目をこすりながらここで解散し、三人組はアパートに戻って仮眠をとることにした。


 数時間後には校長に報告しなくてはならない。


 落書き事件は解決したものの、何者かが平家学院を貶めようとしている可能性があることが判明した。


 そして源氏との学校対決も迫っている。

 こちらも対決内容が直前まで分からないという問題を抱えている。


 ミステリー・ボーイズの出番は、まだまだ増えそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る