第34話 【お母さんの話】(終わり)


 それから私たちは、一寝入りして、朝食を食べて、しばらくしたら成田に着いた。日本はもう11月3日の午前である。荷物を受け取って到着口を出ると今日はお母さんがひとりで迎えに来ていた。

「おかえり。お疲れ様でした。ありがとうございました。つかさ大丈夫だった?」

「うん、大丈夫だった。こうじさんに何もされなかった」

うわっ、やっぱり、そこ?

「すみません。何も出来ませんでした」

ああ、私は何を謝っているのだろう。

私たちは、成田のレストランで、三人で軽食を取って、お茶を飲みながら旅行の報告を兼ねて話をした。つかさも私ももう眠くはなかったが、お母さんは、少し眠そうだった。しかし、つかさの一言で、目が輝いた。

「あゆみちゃんに会ったんだよ。私は酔っ払ってて、全然覚えていないんだけど、こうじさんが小説に書いてた」

「えっ、あゆみちゃん? 中学の時、同級生だった?」

「うん、家族と来たって」

「家族と来たって・・・・・・」

「そこのところ小説読んでみますか? つばささんは完全記憶能力者だけど、酔っ払ってる時の記憶は全然残らないようで、つばささんにも、小説で納得してもらいました。つばささんには、その時、私が何かしたんじゃないかって、身体が変だって、疑われましたけどね」

「はい、読ませてください」

つかさのお母さんは、しばらくじっと黙って私のスマホをゆっくりと食い入るように眺めていた。読んでくれている。東京の44歳が私の小説を黙って真剣に読んでいる。私は改めて取材旅行に思い切って行って良かったと思った。

まもなく、お母さんが、顔を上げ、つかさの方を気にしながら語りかけてきた。

「あのね、 つばさも聞いて。あゆみちゃんは、中学二年生の時、亡くなったの。学校から一人で走って帰って校門を飛び出したところで車にはねられたんだって。つばさは友だちだったけど、全然、あゆみちゃんの話、しないから辛かったのかなと、思い出したくなくて黙ってたのかなと思ってたんだけど、辛過ぎて、つばさの記憶から無くなってたのね。そんな事があったのね。つばさ、ごめんね。気づいてあげられなくて」

「ええ、あゆみ死んじゃったの? じゃ、あれはって、覚えてないけど、私が会ったのは幽霊? 死者の国からやって来たあゆみ?  ほんと? こうじさん、話作ってない?」

「いやいや、作ってません。見たまま、聞いたまま、思ったままストレートに書いてます。そんな創造力ありません。まだ食えない作家です。あははは」

私は笑って答えたが、つかさの目からは大粒の涙が流れ出ていた。さすがは日本だ。直ぐには乾かない。

私たちは、その後、お互い深くお礼を言い合って別れた。私は夕方の佐賀行きの飛行機に乗り、もちろんエコノミーで佐賀へ。身体障害者駐車場にとめておいた自分の青い車で家に帰りついた。嫁さんと二匹の猫たちは私を優しく迎えてくれた。


◇◇🔷   ◇◆◇



それからというか、ずっと後戻って2020年6月現在、まだ新型コロナ自粛中で、来年、小説のように本当につかさに再会出来るのか不安な日々を過ごしている。どうしようもなくて、これから起こって欲しいことを書いてみた。もう、ミャンも辞めているんだね。


「つかさ、もし、これを読むことがあったらすぐに『カクヨム』に連絡を入れてくれ。メキシコ行こうよ。嫁さんも許してくれると思う。お母さんとも一緒に呼子でイカの活き造り食べようよ。君は私のお姉さんだ」



終わり

(長々と最後まで読んでいただきありがとうございました。メキシコ旅行の思い出は一生忘れないと思います。)


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つかさ 岩田へいきち @iwatahei

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