世界を吸いこむ。世界を肌に感じる。世界が、吹き渡っていく。

私がたびたび小説をほめるときに、その世界の実在感、質量感というものを取り上げるのですが。
この作品もまた、そういう部類のものです。

この作品の世界が、肌感覚として伝わる。リアルに存在するように感じる。
竜に乗り、風を切る感覚。早朝の澄んだ空気を、深呼吸する感覚。
文章のリズムが、言葉選びがそうさせるのか。そこにあるものとして、確かに感じられる。
世界に酔いながら、澄み渡っていく。

そしてその世界を生きる人々は、地に足をつけ(空を飛ぶ人々にこの表現が適するかはさておき)、力強く心を持っている。
主人公のトゥトゥをはじめ、登場人物の一人一人、心折れた人も含め、確かな芯というものを感じます。
そこに生きているのだと、感じます。

あとすごく不思議なんですが、固有名詞の言語の選び方がちょっとマネできないバランス感覚なんですよね。
長さの単位が「モル」と独自単位なのに対し、地名なんかは「黒玻璃城」だったり。
統一感がないようでいて、全体としてしっくりきていて、絶対に現実世界ではないけどどこかに存在してそうな文化体系を感じるというか。
これがキチッと成立してるバランス、ものすごく深いことをしているような気がします。
こういうのができる人、尊敬します。

その他のおすすめレビュー

雨蕗空何(あまぶき・くうか)さんの他のおすすめレビュー1,193