胃の中の石。web小説の海の中で、このような作品が読めることの喜び

読まれるweb小説、というものには、いくつかのセオリーがあると思います。
序盤で作品のおもしろみが分かること。スカッとした楽しさがあり、物語の途中でも評価点を入れたくなる作品であること。楽しさが明確で、読み終わってから「楽しかった!」と気軽に書き込めるような作品であること。
他にもいろいろあるのでしょうが、読まれる作品はこのあたりを押さえているものが多いのかなと思います。

ひるがえって、この作品はそういったおもしろみからは縁遠い作品です。
物語がどこへ向かっているのかの全容がなかなかつかめず、物語の区切りのようなものもなく、全力で駆け抜ける爽快感があるわけでもなく、ただ先の見えない薄暗くて息苦しい道を延々と歩くような感覚があります。
そうして読み終わった後も、その感想は一言ですっきりと言い表せるものではなく、自分の中での消化に多大な負荷がかかり、軽々に感想を書けるようなものではありません。
それがこうしてレビューを書くのに読み終えてから一週間もかかった理由であり、読み終えて一週間の間があいてでもレビューを書こうと思い立てるだけの魅力です。

広く読まれる作品は、読んだ瞬間にパッと感情の動きが炸裂し、衝動的にコメントを書き込ませるような魅力にあふれています。
そうしてコメントが書かれるほど他の読者に届く可能性が増え、連鎖的に読者がついていきます。
たとえるなら花火のように。

それに対してこの作品は、決して炸裂しない。
撃ち込まれた砲丸のようにただひたすらにめり込んで、ずしりと残り続けて、花火のように発散されはしない。
胃の中の石のごとく、ただひたすらに残り続けます。

その性質上、こういった作品とweb上でめぐり逢える機会は貴重で、うれしく思います。
そしてこうして書いているレビューの一投が、水面の一石のように波紋を起こして、誰かのところに届けばいいなと思います。