第406話 サンジェルマン、現代へ戻る④

 横田基地を出た犬神たち一行は杉並区永福にある鬼墓邸で降りた。犬神は屋敷の門前で上空見上げて軽く手を振る。それを見た小塚原刑子が不審に思い声を掛けた。


「ちょっとガミ(犬神)ちゃん、何それ……」


「いや、衛星で監視されてるかも知れないだろ。挨拶しとかなきゃな」


「普通、監視とか怖いんだけど」


「いや、警察の要人警護の上級版みたいなもんだろ。恐らく、鬼墓さんと俺ん所の近所に監視拠点もあるはずだ。空軍系の諜報部員の下、元警視庁や元自衛官などによる混成チームってところだろうな。自由だ民主などといっても触れてはいけないアンタッチャブルというのは国家である以上……」


「高級なストーカーみたいもんね」


「そりゃ、そうだ」


 屋敷へ入ると亜梨沙の実母である鬼墓亜衣子の妹が出迎える。応接間に集まった面々は、出された珈琲と洋菓子へ手を出しつつ、あれこれ会話していた。


「ところで幸田君、例の物(マヤの石板)だけどな、多分同じ物をアダムス委員会(犬神達はそう名付けた)も所有してるだろうな。恐らく、似たようなオーパーツが他にもあるはずだ。パレンケの発掘調査を行なったのはフィデル・カストロの従兄弟だが、テオベルト・マーラーかペンシルベニア大学調査隊のエドウィン・シュックのいずれかが怪しい。その辺は幸田君も詳しいと思うけど、見解を聞かせてくれ」


「確かにどちらも怪しいですね。テオベルト・マーラーはドイツ圏の人ですが、ハプスブルク家とはそれほど懇意にも思えません。メキシコ第二帝政の皇帝もハプスブルク家出身者です。その後のオーストリア・ハンガリーやプロイセンを見ると中期的にはナチス・ドイツが覇権確立の手前まで行きました。一方、エドウィン・シュックの調査は戦後の1960年からで大きな発見は1963年……。ベトナム戦争の時代。例の物がナチス・ドイツ崩壊後、アメリカかドイツへ持ち去られたとして、宇宙開発などでソ連が先行したあとのアメリカによる追い上げは不自然でしょう。アメリカに渡った場合でもソ連に先越されたのはおかしい。ならば、エドウィン・シュックあるいは歴史の闇へ葬り去られたかも知れないアメリカの探検家や軍部などが怪しいと見ます」


「流石は幸田君だ。ロズウェル事件が起きたとされるのは1947年でMJ-12(マジェスティック・トゥウェルヴ)設置も同年……。ケネディ大統領のアポロ計画発表が1961年で暗殺は1963年」


「MJ-12が大統領直轄だとすればCIA、国防総省、陸軍、海軍中心ですよね」


「そういうことだ。アメリカインド太平洋軍の歴代司令官は代行を除けばいずれも海軍大将。だとすれば空軍が権限を握り、なおかつ日本の第5空軍が怪しい。戦後から朝鮮戦争時を除けば日本が本拠地だ。もしかしたら、日本で失われた聖櫃(アーク)を第5空軍が発見ということもあり得る。だとすればアメリカも一枚岩ではない。複数の勢力が未知の存在に関する利権を巡って対立している可能性もあるな」


「聖櫃かわかりませんが日本で何かを発見し、それに日本の一部も関与しているのかも……」


「まあ、いずれおいおいとわかるだろ」


 神妙な顔で竹原が口を開く。


「いや、私なんか、その手の話をそうとう馬鹿にしてたんですけど、本当なんですね。ところで鬼墓さんたちは大丈夫でしょうか」


「心配は要らないわよ。向こうの能力者と私は傾向が違うから、単純に研究材料として興味あるのでしょ。あの会見場に居なかったけどキャサリンという若いお嬢さんが、私の弟子となるみたいね。呼んでみようかしら」


 そういうと鬼墓はしばし目を瞑り、しばらくするとまだ10代であろう白人女性が現れた。


「皆さん、ご機嫌いかがでしょうか。私のことはキャサリンと呼んでください」


 犬神が嬉しそうに頷きながら語りかけた。


「キャサリンちゃん、今の会話聞いていた?」


「はい、聞かせてもらいました」


「例の物が何か分かる?」


「あの石板ですね」


「バレたらまずいかな……」


「皆さんティカルについて検索されてるのは前から我々……いやアダムス委員会でしたね。当然、調べており、石板を回収されたという前提です。皆さんの推測は楽しく聞かせていただきましたが、敵対することはないという結論に達していますので、ご安心下さい」


「色々質問していいかな。今、俺たちが見ているキャサリンちゃんは実体?」


「いや、意識を飛ばして見えるようにしただけです。ただ3Dホログラムとは違いますけど」


「そんなこと出来る人、他にも居るのかな」


「居りますね。浮遊移動、透視、念話、読心、残留思念感応などは私たちの得意とするところです。ただ、鬼墓さんのような過去世界へコンタクトしたうえ他人を呼び出したり、戻すことは出来ません。鬼墓さんとの念話で互いの得意能力を学ぶような交流をすることで同意頂けました」


「鬼墓さん、結構前からどうなるか知ってたでしょ」


「ごめんなさいね。でも、悪い話や危なそうなら止めてるわよ」


「知らぬは俺たちだけか。まあ、いいよ。で、キャサリン、過去で見つけた石板好きにしていいかな」


「現代へ持ってこなければ自由です。もとより我々には止める権限がありません」


「分かった。ところでキャサリンは日本語は達者だな」


「私の父も合衆国の軍人で日本生まれの日本育ちだから、ある程度は話せます」


「そうか、今度基地でBBQパーティーする時は呼んでくれ。ここに居る肉山君はアメリカ人も驚くようなBBQの達人だしな」


「私はBBQより焼肉や焼鳥の方が好きですけど……」


「完全に日本ナイズされてるな」


 実体化出来る時間はそれほど長くないとのことでキャサリンは姿を消した。その後、夕方頃に鬼墓母娘を除く犬神たち6人はタクシーで中野へ向かったのであるり

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本能寺の変から始める戦国生活 桐生 広孝 @koh2000e

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