第405話 サンジェルマン、現代へ戻る③
NSA(アメリカ国家安全保障局)長官の空軍大将は幸田広之へ語りかけた(通訳を介して)。
「私はNSA長官で空軍大将のアダムスです。あなたが幸田さんですね。今後、色々と協力して頂きたい」
「具体的に要望をお聞かせ願えますか」
「現在、あなたは向こうで歴史改変を行い、日本が世界覇権国と成りつつあると聞いてます。それに我々が直接介入することはありません。ただ、助けが必要であれば技術発展に欠かせない技術の落とし込みや各種の調査など協力を約束します」
「つまり参考程度にしかならないと聞こえます。また、驚くような事象ではなく蓄積したノウハウがあるということでしょうか……。ともかく『我々』というのは合衆国、国防部、アメリカインド太平洋軍(統合軍)、空軍、NSAなどのいずれを指すのか、確認したい」
「我々については議会やホワイトハウスなどの権限が及ばない独自の専権事項に該当します」
「重ねてお尋ねしますが、その専権事項は特定組織の私的な申し送り事項的なものなのか、それとも横断的な委員会形式といったものでしょうか」
「詳細は申し上げられません。しかし、横断的な委員会形式という解釈はもっとも近いです」
「承知しました。それでは直接介入しない理由についてですが、アメリカにとって脅威に値せず、実験的な興味以外無いと判断します。今後、間違いが起きないよう確認しておきたい。あなたがたが妨害されたくないことを可能な範囲で教えて頂けると助かります」
「決定的なことは申し上げられませんが、アカシックレコードといわれるものを我々はアーカイブと呼んでます。まだ、このアーカイブの全貌は分かりません。ただ、一端らしきものは掴んだまま停滞しております」
ここで犬神が我慢できず横から口を挟んだ。
「アメリカが宇宙人、未来人、並行世界、別次元の存在とコンタクトしていても興味は無いよ。勝手にすればいい。恐らく俺の推測では、この世界も複製されている。アメリカが存在しない世界もあれば、ソ連や東側が勝利した世界だってあるはずだ。幸田君の作り上げた日本が世界帝国化する世界も無数に存在する世界のひとつにしかすぎない。だから、そんなものには興味なくて当然だ。ただ、アーカイブへ自由にアクセスしたり、コントロールする術を先に見つけて、勝手なことするなって話だろ」
「犬神さん……。明確な回答は避けますが我々側にも鬼墓母娘のような存在は居ります。リモートビューイングにより空間や時を超えることは可能な上、相当な精度ですが、他者を自在に呼んだり戻すことは出来ません。また、自身が過去や未来への移動も実験しましたが、いずれも失敗しました。可能ならば、鬼墓母娘を我々のチームへお迎えしたい。しかし、既に我々の能力者がコンタクトを重ねた結果、難しいと判断しております。それでも無理を承知で、我々の能力者を鬼墓さんへ弟子入りさせて頂きたい。可能な限り邪魔はしません。また、協力の対価として出来る限りの便宜を図ります」
犬神は興味なさげな態度だが、頭をフル回転させつつ、少し間を置いてからアダムス長官へ質問した。
「アダムス大将閣下、俺たちの安全は当然のこととして、どのようなメリットがあるのか、提示して欲しい。現在の世界においてアメリカが色々と優位であってもEU、中国、ロシア、インドだって黙ってないだろ。天秤に賭けるつもりはないよ。しかし、この横田基地に象徴される一方的な日米地位協定や国連地位協定の如き片務的関係なら御免被りたい。ただ、あんたら何とか委員会は鬼墓さんを十分調べたはずだ。NSAが噛んでるなら、どこで誰と会ったとかCIAみたいな泥臭いアナログじゃなく、その気になれば電子的な履歴や通信傍受はお手の物。その結果、日本政府中枢との接触は避け、国家レベルの影響力を行使してないことは承知済みだろう。そこに居る世が世なら皇族であり、殿下と呼ばれてるはずの御仁やノーベル賞候補の日本人学者様など見ても何とか委員会=合衆国じゃなく国家レベルを超越しているであろうことは理解したよ。世界的IT企業のいくつかもあんたら何とか委員会の協力下における傀儡企業なんだろ」
「犬神さん、あなたのことは祖父を含めて色々存じてます。調査によるファイリング通りの優秀なお方だ。オカルトサークルや陰謀論界隈の変人でないことは承知しておりますが、話が早くて助かります。それでは便宜の内容を提示いたしましょう。まず、中国やロシアなども我々と同じような組織を構築しつつありますが、まだ微弱です。あなたがたへ何らかの接触を企てる可能性もありますが、全力でお守りいたしましょう。無論、監視するような意図はございません……」
この後、NSA長官であるアダムス空軍大将は一端休憩を挟んだあと、具体的な便宜について詳細に説明した。大まかに抜粋すると以下の通りだ。
○犬神たちの安全確保
○ミリタリーIDとミリタリーオーダー付与
※ミリタリーオーダーは任命書のこと
○アメリカの永住権
○特殊な口座とクレジットカードの付与
○幸田広之が持ち込む金や骨董品の換金
○幸田広之娘の支援
○幸田広之や織田信孝など横田空軍病院での治療
○月刊シャンバラは犬神の編集プロダクションが制作しているが、世界的規模の番組配信ネットワークでのミステリー番組制作
○肉山298や小塚原刑子への仕事提供
○竹原の国際学会におけるしかるべき待遇
○鬼墓母娘用の特別施設を提供
○幸田広之の現代における拠点提供
○必要な情報と資料の提供
○必要な資金の提供
この他にも犬神はアメリカ軍、国防総省、NASAへの独占取材など特典満載だ。さらに、幸田広之を含む6人へそれぞれ数億円分使えるというクレジットカードがロックフェラー家当主よりのプレゼントとして渡された。
その他にも軍用衛星通信スマホの最新版も供与。西暦2038年においてはスマホも衛星通信が当たり前となっていた。また、幸田広之には専用車が提供される。米軍公用車用のナンバープレート付きだ。このナンバープレートが付いた車両ならば日本の警察は基本的には手出し出来ない。
また、当時の人々が読める文章で書かれた日本語、英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、ラテン語、トルコ語、アラビア語、中国語による銃・大砲・艦船・製鉄・医学・科学・数学などの書類や図面。16~17世紀当時の膨大な各種資料。さらには様々な種子と説明書なども手渡された。
こうして、サンジェルマンは過去へ戻る3日後まで従兄弟や一族と過ごすことになり、別行動となる。数時間後、織田信孝を含む犬神たち一行は都心へ向かうのであった。
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