地元のキャンプ場

沖野 紅

地元のキャンプ場

 私の住んでいる地域には神社と併設してある川沿いのキャンプ場がある。

 嘘なのか本当なのか分からないけど、そこの神社はもともとは首塚という斬首刑にされた人の首を供養するための塚だったらしい。


 それもあってなのか地元ではちょっと有名でトイレには鏡がない。


 噂では幽霊が映るとかで撤去されたらしい。もともと、川である以上水難事故もあるし、ましてキャンプ場というのもあり酔っ払いが川で溺れるなんてこともよくある。


 そんなキャンプ場だが、入場料は無料だし自然に囲まれていて夏は涼しく空気もおいしい。他県や遠方から来る人もいてまあまあ賑わっている。


 もちろん地元民もよくいる。


 かくいう私も、田舎の遊び場といえば山か川しかなく学生の頃はよく友達と海パン一丁で自転車に乗り遊びに行っていた。 

 

***


 高校一年生の夏休み。

 友達三人と海パン一丁で自転車に乗りキャンプ場へ向かった。


 キャンプ場へは山道を登らないといけないが山道に入ってしまえば木陰と山風で比較的涼しくて気持ちが良く、「マイナスイオン感じるわ」なんて友達といいながらチャリを漕いでいたのを覚えている。


 自転車は、駐輪場でも何でもない神社の手前にある木陰に止めて、ペタペタとサンダルを鳴らしながら飛び込み台へと向かった。


 飛び込み台といっても地元民が勝手にそう呼んでいるだけで、実際は水面からの高さが5~6メートル程のただの崖みたいな場所だ。


 到着するとすでに地元民が何人かいて度胸試しをしていた。

 早速、後ろに並びテンポよく飛び込んでいく。


 飛び込む時は、なるべく手は体側にくっつけ垂直に飛び込まないと全身あざだらけになる。飛び込み方を間違えるとかなり痛い。


 ちょっとした遊びのノウハウを友達に教えつつ何度か飛び込んでいた時。ふと、川上の方の大きな岩の上に黒いボール?みたいなものがちょこんと乗っかっているのに気が付いた。


 自分の番になり飛び込んで着水。川岸には戻らず、そのまま川上の方に泳ぎ岩場を登りボールらしきもののあった岩に向かう。


 岩場を登ると浅瀬になっていて、膝よりちょっと下くらいまでの水しかないが川底の石がヌメヌメしていて足を取られそうな場所だった。


 足元に注意しながら目的の岩に近づくと周りの岩が白く、光が反射して眩しくてはっきりとは見えなかったが、だんだんボールらしきもののシルエットが分かってきた。

 それは、いびつな球体のようだった。


 『あ、人の首かも』


 そう思った瞬間、体中の毛が逆立ったのを覚えている。


 直感的に引き返そうと思った時、球体は岩の上をコロコロと転がって音もなく川に落ちた。

 その球体の落下に合わせて自分の視界がゆっくりと傾き、気がつくと私は溺れていた。


 浅瀬といえど川の流れる力で体が回転させられてうまく立ち上がれず鼻や口には大量の水が入り苦しかった。


 正直、死を覚悟したが数メートル流されたところで運良く岩と岩の間に挟まって助かった。


 全身は打撲気味で痛かったが無理やり川から上がり、呼吸を整えながら休んでいると、友達の1人が心配して私の名前を呼びながらこちらに近づいているのが分かったが、呼吸が乱れて声が出なかった。


 呼吸が整ってきたところで立ち上がり友達の方を見て手を振った。


 気が付いた友達がこっちに近づいてきたとき、友達も足を滑らせて倒れた。


一瞬ヒヤッとしたが「いってぇ」と言いながらすぐに肘を押さえながら立ち上がった。


「痛ぇし帰るか」

「だな」


 飛び込み台に戻り、もうひとりの友達と合流した後、近くの自販機でジュースを買って少し休憩をしてから帰った。


 帰り道、友達が擦り剝けた肘を見せながら「あそこの浅瀬めちゃめちゃヌルヌルしてて滑ったしや、いってぇ」と言うので「いや、俺も負けてねえから」と負けじとアザだらけの体を見せた。


 一番無事だった友達に「お前らアザやばすぎだろ」と言われながら溺れたことを笑い話にして帰ったことを覚えている。


 そして、これは特に友達には話さなかったのだが、友達が足を滑らせた時、足元にあの球体みたいのが見えて、友達の足に当たった瞬間、ぶわっと液体のように広がていくのが私には見えていた。


 あの球体が一体何だったのか未だに分からない。

 ただ、それ以来あのキャンプ場には行っていない。



 


 



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地元のキャンプ場 沖野 紅 @onoko

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