自分を「普通ではない」と思うのならば、これはあなたのための小説です。

私たちは普段から何気なく「普通」という言葉を使いますが、実際のところそれは、経験、環境、時代などで絶えず移り変わる個人の感覚次第であり、その基準はどこまでも曖昧模糊です。
自分が「普通」だと思っていても、他方から見ると「普通ではない」なんてことはざらで、逆もまた然りです。
結局のところ、世の中に真に「普通の人」などいなくて、「普通だと思っている人」と「普通ではないと自認している人」のどちらかでしかないのかもしれません。
私が「南理央」を共感的に見ることができるのは、やはり私自身も「普通ではない」と感じているからであり、そして彼女を「普通」だと思えるからなのでしょう。
だからこそ、彼女の言動一つ一つに、そして、同様に「佐倉まこと」のそれに対しても、現実的な重みを伴った緊張を感じ、全てを読み終えた後でも、穏やかな結末に反して私はある種の心地良い疲労感を覚えました。「普通ではない」と思っている人間として、この追体験を良質に味わえることは幸運なのかもしれません。
そして、彼女たちが出会い、手を取り合って歩み始めたように。「もし明日世界が終わるのならば」――そんな問いにも即答できるような揺るぎない標を、私たちは強く求めながらこの世の中をなんとか生きているのだと思わされました。