第54話 エピローグ
昴と由布子は慌てて廊下を走っていた。
予鈴はとうに鳴っている。部室でのんびりしすぎたようだ。
月見里はいくら引っ張っても動こうとしないので、しかたなく見捨ててきた。
真面目な由布子はともかく、昴は普段なら遅刻など、そう気にすることはない。
だが今日は新しい教師がやって来る日だ。
元々予定にあったこととはいえ、西御寺が退職してしまったため、その教師は急遽二年D組の担任に就任することになったのだ。
たとえそれがどんな教師だったとしても、初日にいきなり遅刻して、変に目をつけられたくはない。
しかし、彼らが教室の前まで辿り着いたときには、その女教師はすでに教室の扉の前に到着していた。
「げっ」
昴のその声が聞こえたのだろう。
女教師は扉に伸ばしかけていた手を止めて、彼らのほうへと向きを変える。どこか無表情で空色の髪と琥珀色の瞳が印象的だった。
昴と由布子は驚いて彼女を見つめた。相変わらず小柄で、着ているものこそ地味なスーツに変わっているが、歳を取ったふうもなく、あの日と同じように彼らを見つめている。
それは間違いなく、ふたりの恩人――秋塚千里の姿だった。
「あ、あの……」
先に口を開いたのは由布子だった。しかし、あとが声にならない。
昴もまた何から話せばいいのかわからず、とまどいながら女教師を見つめていた。
そんなふたりを見て、千里はふっと微笑む。
「ふたりとも元気そうだね」
彼女は彼らを忘れてはいなかった。
「さあ、話はあと」
そう言って教室に入るように促す。
昴は不思議な縁を感じながら、その言葉に従うことにした。
どうせ今は胸がいっぱいで、無理に話しても、いい言葉は浮かんでこないだろう。それよりは放課後までの時間を使って、ゆっくりと考えるべきだ。彼女に伝えるべき、お礼の言葉を。
そしてそのあとで、みんなと一緒に頼めばいい。地球防衛部の顧問を引き受けてくれるように。
きっと彼女は応じてくれるだろう。元・地球防衛部の二代目部長なのだから。
昴は由布子の手を引くと、晴れやかな気持ちで教室の扉を開くのだった。
アースセーバー ~金色の継承者~ 五五五 五(ごごもり いつつ) @hikariba
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