第182話 ……僕、誰なんだろうね

 ロリ化……からショタ化してしまったブレアと、そのまま寮室に向かって歩く。


「先輩……が女の子にも男の子にもなれるのはわかったんですけど。実際、本当はどっちなんですか?」


 その途中、ルークは興味を抑えられず聞いた。


 以前聞いた時はわからない、とはぐらかされてしまったが、実際はどうなのだろうか。

 はぐらかしたと言うより、ルークが距離を置くようにわざと変なことを言ったのかもしれないと思っている。


「わからないの。気づいた時にはもうこうだったから。」


「え、わからないって、本当だったんですか?」


 しゅんと眉を下げて言うブレアは、嘘を吐いているようには見えない。


「お母さんなら生まれた時にどっちだったか知ってるだろうけど、教えてくれないし。僕の場合、生まれた時の姿が本来の姿とは限らないってリアムが言うんだ。」


 じっとルークを見つめていたブレアが、何気なく前を見る。

 丸い目を伏せたかと思えば、悲しそうに言った。


「変でしょ。魔力いっぱいだし、性別わかんないし、全然お母さんに似てないし……僕、誰なんだろうね」


 暗い顔を見て、ルークは思わず手に力を込めてしまった。

 痛かったのか驚いたのか、ブレアが目を丸くしてルークを見る。


「……先輩は先輩ですよ。」


「え?」


 ルークにとっては当然の答えだったが、ブレアにはわからないらしい。

 きょとんとしたブレアになんと言おうか、とルークは頭をひねる。


「その、魔法がお上手なのってすっごくかっこいいですし。性別がどっちだろうと、お母さんに似ていなくても、先輩が素敵な人だってことは変わりません。俺は、変わったところも含めて先輩が大好きです」


 ルークは至って真剣に言ったのだが。

 ぱちぱちと目を瞬いたブレアは、くすりと肩を揺らして笑った。


「えぇぇ、何かおかしなこと言いましたか……?」


「ううん。リアムと似たこと言うなって思ったんだ。ありがと」


 にこりと笑ったブレアは、少し早く足を動かした。

 どうやら元気が戻ってきたようで心底安心する。


 リアムと似たようなことを言う、ということは、リアムにも同じことを聞いたのだろうか。

 こんなに幼い頃から悩んでいたのかと思うと、自分のことのように胸が痛くなる。


「気にしなくて大丈夫ですよ。俺も変なので!」


「そうなの?」


 何故か胸を張って言うルークに、ブレアは不思議そうに眉を下げた。

 もっと元気づけたかったのだが、困らせてしまっただろうか。


「変ですよ?周りから呆れられるくらい先輩のことが好きで、運動はめちゃくちゃ得意なんですけど、勉強と魔法は全然駄目なんです。基礎魔法にも苦労するのに、何故か無属性魔法ならすごいこともできちゃうんですよ!」


「そうなの?」


「はい、そうです!」


 ブレアの表情が明るくなった気がして、ルークは嬉しそうに笑う。

 するとブレアは開いている方の手もルークの手に添え、両手で包むように握ってきた。


「すごい無属性魔法、見たい!」


「そっちですか!?」


 キラキラと目を輝かせるブレアだが、思っていた反応と違う。

 ガクッとこけかけたルークは、すぐに声をあげて笑いだした。


「ダメだった……?」


「いえ、先輩らしくて安心しました!」


 ルークが元気よく言うと、ブレアはこてんと首を傾げた。

 その仕草もやっぱり可愛らしくて、性別など大した問題じゃないと実感する。

 部屋に戻って魔導書を見せたら、もっと嬉しそうな顔を見せてくれるに違いない。


「――あれ、ルーくんじゃーん!」


 後ろからそんな声が聞こえ、ルークは振り返ると同時に咄嗟にブレアを背中に隠す。

 堂々と廊下を歩いていたものの、今更このブレアを見られたらまずい気がしてきた。


「リサ先輩!……と、エマ先輩も。こんにちはー。」


 自然を装って言うルークの顔が、がっつり引き攣っている。

 声を掛けてきたのはアリサだが、エマも一緒にいたようだ。


「ルーくん、ゆりゆりと一緒じゃないの?珍しいー。」


「今誰かと一緒じゃなかった?」


 不思議そうなエマは、どうやら少しブレアの姿を見たらしい。

「誰もいませんよー」なんて雑な否定をしても、貫き通すのは難しいだろう。

 ブレアは後ろで大人しくしてくれているが、ルークの演技が下手すぎる。


「えぇー、なぁんか怪しいなぁ?隠し事してないー?」


「し、してませんよ……。」


 ニヤリと不敵に笑ったアリサが、距離を詰めて疑いの目を向けてくる。

 全力で目を逸らすルークはますます怪しい。

 アリサはじっとルークを観察し、影に何かが隠れていることに気づいた。


「あ、わかった、後ろだー!」


「気のせいですって!」


 すすす……と後ろに回り込むアリサから逃げるように、ルークは身体の向きを変える。

 後ろ手でブレアを支えているため、何かを隠していることはバレバレだ。

 というより、アリサから隠そうとするのはいいのだが――。


「えっっっ可愛い~!」


 エマのことをすっかり忘れている。

 アリサから逃げて動いたせいで、逆にエマに見えてしまった。


「あっ。」


「ブレアにそっくりー!お名前は?」


 すっかりテンションが上がったのか、エマはかなり弾んだ声で聞く。

 満面の笑顔は優しそうだ。面倒見がいい方であるし、子供の相手は慣れているのかもしれない。


「……ブレアだよ。」


 ルークから少し離れたブレアは、戸惑うような小さな声で言った。

 ブレア本人なのに、知らない人から“ブレアにそっくり”と言われればそりゃあ戸惑うだろう。


「え、ブレアなの!?……ルークくん?」


 まさかブレアだとは思わないだろう、サファイアの瞳をまん丸にしたエマは、どういうこと?とルークを見る。

 ここまでくれば言い逃れはできないな、とルークは観念して口を開く。


「……その子が先輩です。かくかくしかじかで、魔法の効果でロリショタ化してしましまして。」


 まあ、エマとアリサなら大丈夫だろう。

 そう判断し、ルークは簡単にこれまでの経緯を説明した。


「なんだ、微妙につまんないなぁ。」


 ふむふむ、と頷いて聞いていたアリサが、溜息を吐くように言った。

 十分おかしな話だと思うのだが、アリサは不満そうに唇を尖らせる。


「期待外れー。」


「何を期待してたの?」


 一体誰だと思っていたのか、などと聞くエマはさり気なくブレアの頭を撫でている。

 かなり楽しそうだが、子供が好きなのだろうか。

 エマに疑問の目を向けられ、アリサはニコリと笑った。


「ルーくんとゆりゆりの隠し子かと。」


「そんなわけなくないですか!?俺の倫理観どうなってると思ってるんですか。」


 見た目の年齢から考えても絶対有り得ない。

 本気で否定しはじめるルークに、アリサは愉快そうに笑った。

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《第4章完結》学校1の天才美少女な先輩に即告白・即失恋!だけど諦めきれません! 天井 萌花 @amaimoca

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