第50話:発覚


「先輩、お待たせしましたぁ」

「結果発表、結果発表!」


 控室から通ずる廊下。

 その隅にて灰色の髪の二人がニタニタと俺のことを視ている。

 ……はぁ。

 彼らのテンションからして大体察してる。

 

「これを見てくださいぃ」

 

 スマートフォンの画面を突き付けられる。

 そこには軽音部と書かれたグループチャットに投票結果という単語と共に付属した画像があった。

 棒グラフにて表された結果。

 他より圧倒的に伸びた二本の線。

 恐らくだがこの二本で全体票の過半数を占めているだろう。

 二本の根元に書かれた名前は。

 神原チーム。

 ゲストチーム。

 その差は2票。

 たった2票。




 神原チームが上回っていた。

 

 見たくなかった現実だ。

 目の前の二人がクスクスと隠しきれずに笑みを零す。

 

「さぁお楽しみの時間ですぅ」

「拡散!拡散!」


 スマートフォンの画面を例の写真に切り替え、俺の方へ向けながら跳ねている。

 結局こうなってしまうのか……


「……」


 発する言葉もなくただ唇を噛む。

 爪が掌に食い込む。

 

「あんなトラブル起こすなんて準備不足なんじゃなかったんですかぁ?」

「対応できなきゃいけませんいけません!」


 うるせぇよ。

 聞こえてくる灰色の髪の二人による笑い声が脳に響く。

 それはまるで永遠にも感じた。


「おい……お前ら何をやってる」


 背から聞こえる靴の音。

 一つではなく。 


「「あ!神原先輩!!」」


 振り返ると神原かんばら あきらとスタッフとして働いているはずの律貴の姿がそこにあった。

 なんで律貴がここに……  

              

「お前ら、その画像はなんだ」


 語尾につれ低くなる声。

 普段から鋭い神原 彰の眼がより一層鋭くなる。

 だが灰色の髪の二人は気にしない……というか気付いていない様子。


「あ、これですかぁ?いまから皆に送るんですよ」

「送信送信!」


 神原 彰が前へと出る。

 そして今もなおニタニタと笑う二人の前に立った。


「神原先輩も見ます?」

「……あぁ」


 彼らからスマートフォンを受け取った神原 彰は画面に映る例の画像を見て息を一つ吐く。

 そして。



 消した。


「えぇぇ!?」

「なんで!なんで!」


 さっきまでの笑顔とは異なり驚愕の表情を見せる灰色の髪の二人。


「お前らオレがこんな下らないことで喜ぶなんて思ってるのか?」


 普段より明らかに低く圧のある言葉。

 声色で分かる。

 物凄く切れている。

 俺は知っている。あの時と同じだ。


「こんなやってたことにも気付かないオレはホントにバカだ……」


「「先輩?」」


 神原 彰は消えていきそうな言葉共に片手で頭を抱える。

 『脅しも』この言葉で俺はある程度の予想は出来ていた。

 

「全部な監視カメラに写ってんで」


 この様子をずっと見ていた律貴が口を開いた。

 俺は思い出す。

 『ここは監視カメラも完備してるし何かあったら証拠出せるで言えよな』

 ライブ前に律貴が言っていた言葉。


「ステージのカメラを見せてくれって言われた時は驚いたんやけど、確認して気付いたわ。あんたら響のライブ前にシールドコードを切ったやろ。靴に刃物かなんか仕込んでたんやろ」


「「!?」」


 明らかに狼狽える灰色の髪の二人。

 やっぱりかと思った。リハーサルの時に気付かないなんてありえないから。

 神原 彰が灰色の髪の二人を睨む。


「オレのプライドを踏みにじりやがって、分かってんだろうな」

 

 


 



 



 


 

 

 


 

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音が紡ぐ二人の憧憬、それは空に散った夢の光景 のーこ @n-ko75no-ko

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