第49話:ライブの閉幕
ステージから撤退し控室へ向かう廊下に居るのは俺達二人だけ。
「響くん、いやマイバディ!流石だよ!最高だよ!」
ステージでのトラブル何て無かったかのようにハイテンションの歌乃が飛びついてくる。いくら相手が女の子とはいえ背丈のある歌乃。
受け止めはできるが少しフラッとした。少女の体温がじわっと伝わってくる。
「いや迷惑をかけた……」
そう言葉をかけながら少女を引き離す。
歌乃の顔、こんな近くで見たの久しぶりかも知れない。綺麗なブラウンの瞳が特徴的な大きな目、綺麗な肌。その整った顔立ちが真ん前にあって少し照れ臭くなる。
歌乃が悪戯っ子のような笑みを零す。
「貸しにしておいてあげる♪」
少女は俺の手を取って控室へと向かう。
一体後で何を求められるのだろうか……
ただ気になるのが俺達と入れ替わりでステージに上がって行った
入れ替わりの際に決して俺に目を合わせることなく、というか避けているようにも感じた。
「ボーっとしてらコケちゃうよ?」
「分かったから!引っ張り過ぎ!!」
そんな俺の思考も目の前の少女には関係なく、俺達は控室へ走って行った。
――――――――――
俺達は控室である程度の片付けを終え、着ていたフード等の服も変えてフロアへ降りてきていた。トリの演奏を聴くために。
まぁ歌乃に関しては残った時間で単純にライブを楽しみたいって感じだと思う。
熱に満ちたフロアでは
「ありがとうございました」
神原 彰はフロアに一言挨拶を述べる。
「神原さぁぁぁん!!」
「ありがとぉぉぉぉぉぉ!」
「今日も最高だったよぉぉぉぉ!!」
熱いフロアの至る所からライブのトリを務めた彼らへの賛辞が飛び交っていた。
肌で感じるこの熱、演奏をすべて聞けてはいないが間違いなく実力は本物であると感じる。応援する生徒がいるのも納得だ。
ステージから見ていたのと景色は異なるが熱量だけでいうと俺達と差異が無い様にも思えてしまう。
「……」
「ん?響くんどうしたの?そんな怖い顔して」
「あ、あぁ……何でもないよ」
目の前の光景と例の投票のことがリンクして頭が痛くなっていた。
投票の事を知らない、その裏で行われている取り引きを知らない彼女にバレる訳にはいかない。
今の俺にできるのは自分たちの演奏を信じること。
だけど、どうしても、あのトラブルが脳裏に過ってしまう。
――――――――――
「楽しかったぁぁ」
「うちの軽音部流石だね!」
「あの知らない二人組も凄かったよ?」
「でも流石はトリを務めるだけはあると思ったよ」
口々の感想を述べながらフロアを後にする観客たち。
出口に置かれた今日の評価を集める箱には一つ、また一つと用紙が投げ込まれていく。それを俺達は邪魔にならない隅の方で眺める事しか出来ない。
「ボク、こんな投票あるの知らなかったよ。まぁボクたちが一番だろうけどね♪」
「……そうだな」
返事まで間が空いたが歌乃は特に突っ込んでくることは無かった。
最後の用紙がが投げ込まれたと同時に箱が回収される。
直ぐに集計作業が始まるのだろう。
その様子を確認し控室に戻る。
控室にて帰宅の用意をしている最中。
コンコンコン
ドアを三回叩く音が聞こえた。
俺が軽く返事をし、ドアを開けると、そこには灰色の髪の二人。
「ちょっと来てください先輩ぃ」
「こちらへこちらへ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます