あとがき
ついに完結しました、小説『にんげんホイホイ』、いかがでしたでしょうか。
私にとっては三作目のオリジナルストーリーとなるこの作品、今までで一番多くの方に閲覧いただいたものになり、大変感謝しております。ありがとうございました。
私は妄想家でありまして、頭の中にいくつもの「物語」を抱えていたりしております。それを表現する手段として小説を書いているのですが、もちろんそれをただ書いたのでは妄想の羅列にしかなりません。なので色々とバックボーンを考え、キャラクターを立て、ストーリーの起承転結を考えて、そして感動のクライマックスを想像して、自分の妄想の中でその物語を採点し、100点満点のものが出来上がったものを文章に起こしています。
ただまぁ、文章力も構成力も足りていませんので、出来上がったものは大抵50~70点程度の物になってしまうのですが(笑
本作はそんな妄想の中「人類が消えた世界で私(おじさん)が少女と出会う」という物語をチョイスしております。なんとも事案、犯罪の臭いがする世界でありますが、別によこしまな思いではなく、ちゃんと「生きて行く」というのをテーマにして妄想しておりました。
が、さすがにそれを物語にするのは難しかったので、おそらくはお蔵入りするものだと思っていました。
オリジナル小説を書こうと思い、今までの小説投稿サイト「ハーメルン」から「カクヨム」「小説家になろう」へと発表の場を広げ、様々なネット小説を閲覧して見たのですが……
そこで思ったのが「作品の均一化」でした。
よく言えば洗練されている、ということですが、事実上は物語の大元がテンプレとして出来上がっている、という世界になってしまっているように思われたのです。
転生、チート、追放、ざまぁ、配信、ダンジョン、悪役令嬢、そして目に余るほどの主人公補正。世界が主人公を甘やかし、ご都合主義で主人公だけがいい思いをして、他の登場人物を踏みつけて気にも留めない。そんな作品ばかりが幅を利かせ、もてはやされているなぁ、というのが正直な感想でした。
でも無理もありません。流行りに乗るのは作家として当たり前であり、テンプレが出来上がっているならそこに自分なりの味付けをして、より読者の興味を引く、というよりはより読者を酔わせる、自分の想い通りになる世界に気持ち良く溺れさせるお話が受けるのは当然の事なのです。
でも、そこに作者の『世界』は、『物語』はあるのでしょうか。
そう思った時、私の妄想の物語「人のいなくなった世界でおじさんが少女と出会う」お語に、思わぬ味付けをする事を思いつきました。
そう、その物語の中で、今流行りのテンプレ物語を徹底的に否定してやろう、と(笑)。
人類が居なくなる。その設定に核戦争でもバイオハザードでもない、異世界転生(転移)をくれてやってはどうか、と。
自分の都合のいい世界に溺れる今時の作者や読者に、まともに喧嘩を売ったこの設定を思いついた時、私は「コレはいける!」とヒザを叩いたものでした。
人々が『にんげんホイホイ』に囚われた世界。それは今時のWeb小説が流行りのテンプレに酔いしれている状態の縮図でもあるのです。
その中にはチートがあり、ざまぁがあり、主人公補正があり、自分の妄想の世界があるのですから。
さて、世間の流行りに背を向ける以上、主人公のおじさんが女の子に好き好きされる物語は避けなければいけません。そこで抜擢されたのがヒカル君でした。
三人目の主人公として登場した彼は、くろりんちゃんと湊の距離を健全なものに保つ役割と、私の好きなボーイ・ミーツ・ガールを描くという大きな効果がありました。
作品を執筆するにあたって、妄想になかった新たな主人公を出すというのは今までになかった経験であり、それにより二人の心境の振れ幅もより大きく取れ、彼らを生き生きと動かすのに大きく役立ちました。あるいはホイホイのアイデア以上に成功した設定だったかもしれません。
椿山湊、夏柳黒鈴、白瀬ヒカル。この三人の主人公たちがそれぞれ良さを生かし、欠点をさらけ出し、お互いがそれを埋めて行く。そんな姿がいわゆる「主人公に都合のいい世界」をずいぶんと薄め、ドラマチックな展開を増やしてくれました。
舞台がロードストーリーの体を取って次々と移動したのは、作者の一押しのアニメ映画「すずめの戸締まり」の影響であります。週末世界で同じ所でとどまって生活しても物語に進展はありません。なので彼らに旅をさせて様々な出会いや経験を重ねて行く。その積み重ね、多くの人とのつながりで『にんげんホイホイ』と言う脅威に立ち向かっていく。そんな物語を描きたかったんです。
脇役として一番成功したのは、天藤たち神奈川での喧嘩相手でした。彼らは作中で「ヤンキーの更生物語」を担う立場でもありました。
あ、私ははっきり言ってその手の物語は嫌いでした。「こち亀」の両さんが言ってた「最初っからずっと真面目な奴の方がずっと偉いんだ」というセリフには、いたく感心したものであります。
私は学生時代にいじめられっ子だったこともあり、いじめっ子であるヤンキーが物語でカッコ良く描かれる話は大嫌いでした。そして近年、創作の世界はその想いをよく汲み取った流れになりつつあります。
その結果世に溢れたのが、「いじめっ子(浮気者、自分を追放した者)だからどんなに残虐に殺しても、社会的地位をどん底に落としても、精神的にどれだけ堕としても構わない」ざまぁ物なのだから、なんとも嘆かわしい話です。
ある意味、いじめられっ子の最も醜い憎悪を存分に発露するこの「ざまぁ」は、心の奥にドロドロしたものを抱えている読書家の夢を叶える、ある意味ダークファンタジーと言って差し支えない物であると思っています。
若い頃ならこういう話も好きになったかもしれません。しかしオッサンになってみると、自分だって決して精錬潔癖に生きてきたわけじゃ無し、どこかで誰かに恨まれててもしょうがない、それを突きつけられたらちゃんと詫びて、出来たら和解したいなどと思うようになりました(身に覚えはありませんが)。
そう思うと、ざまぁな物語がいかに幼稚で、契合してはいけない物語であるかがよく分かりました。いくら流行していても、自分はそう言う物語を書く気も無ければ称賛する気にもなれません。
ざまぁされる側を、いじめている物語に違いは無いのですから。
なので天藤君、ルイ、ハートちゃん達は作中で、敵から友人へと移り変わるキャラとして物語の良いスパイスになってくれました。真面目な主人公枠は元々ヒカル君やくろりんちゃん、そして湊さんがいるのですから。
作中で語られている湊さんや大熊蘭さん言葉は、私の「ざまぁ」に対する偽らざる意見でもあります。
「殴るなら殴られる覚悟、殺すなら殺される覚悟するんは当たり前じゃ」(二十六話)
”大人になると言う事は、我慢を覚えると言う事だ”(三十一話)
「人間の善意と悪意なんて振り子のように振れるもんさ」(三十二話)
人間は主人公と言う絶対の存在でも無ければ、悪役と言う舞台装置でもありません。全ての人が対等であり、感情を、人生をもって存在しているのです。それを忘れて物語を描けば、幼稚で陳腐なものになってしまうでしょう。
例えが大きくなりますが、有名漫画「ワンピース」を見て下さい。
バギーが、クロコダイルが、ベラミーが、キッドが、ただ単にざまぁされるだけのキャラでしたか? 違いますよね。彼らにも矜持があり夢があり、それを突き動かすだけの心の芯がある。あれこそ血の通ったキャラクターだと思うんです。さすがは稀代の大人気漫画と心から思います。
ううん、めんどくさい作者ですねぇ私は。これだから人気出ないんですよ(笑)。
本作の連載中、各サイトで様々な方に感想やアドバイス、そして誤字報告を頂きました。それはただ単に嬉しいだけではなく、物語をより良くするための貴重な要素として大変役に立ちました。
こういう読者と作者のキャッチボールで、作品の完成度が上がっていくのはWeb小説ならではの良さだと思います。
様々なご意見をくださった方に、あらためて感謝の意を示し、以下に一覧を書き残させていただきます。
―――――――――――――――――――――――――――――
サイト「カクヨム」より。
・土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり) 様
外国語、方言指導。ホイホイ使用例。おすすめレビュー。応援コメント
・赤羽杏子 様
誤字報告、キャラクター「羽田杏美」原案、おすすめレビュー、応援コメント
・ハナブサ 様
誤字報告、おすすめレビュー、応援コメント
・砂洗い 様
ジビエアドバイス、応援コメント(第一号)
・その他のおすすめレビューを下さった方々
初美陽一 様
でんでんむし 様
釈 余白 様
根 九里尾 様
加須 千花 様
@TFR_BIGMOSA 様
🌸桜蘭舞🍒 様
或真 様
@niku_9 様
桔梗 浬 様
あるまん 様
その他、応援コメント、ハート押し、小説をフォローしてくださった多数の皆様。
―――――――――――――――――――――――――――――
サイト「ハーメルン」より。
・小林司 様
誤字報告、感想コメント多数
・N2 様
誤字報告、感想コメント多数
・はにワ 様
誤字報告、感想コメント多数
・concatenate 様
ホイホイされなさそうな人々の検証
・mmmm 様
世界各国でのホイホイ状況の考察
・布団のDanny 様
ホイホイの末路考察
・パラッパラッパー 様
初感想
その他、感想、お気に入り、評価を頂いた多数の皆様。
―――――――――――――――――――――――――――――
サイト「5ちゃんねる」文芸、書籍サロン板。
【自薦】カクヨム晒しスレ Part.13にて様々な作品に対するアドバイス、叱責をくださった皆様。
―――――――――――――――――――――――――――――
本当に、ありがとうございました。
それではまたご縁が合えば、次回作でお会いしましょう。
三流FLASH職人(現:素通り寺(ストーリーテラー))
にんげんホイホイ 素通り寺(ストーリーテラー)旧三流F職人 @4432ed
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます