我が子を愛しむように。


 書籍化。
 物書きであれば誰もが考える夢、目標の一つだろう。
 この作品は「餅は餅屋」とでも言うべきか、出版社の編集者が考える書籍化のOK・NGを端的に示したものである……



 この作品の上手なところであり、また複雑な気持ちになるところはタイトルである。
 いい小説、悪い小説。売れる小説、売れない小説とは書いていないのだ。

 有識者によって端的に示された結論は、真っ当な書き手に対するエールのように感じられる。
 しかし、こう穿った見方も出来る。誰も正解を知らないのではないか、と。

 書籍化とは早い話、自分のアイデアや世界観を「換金する」ということなのだ。
 換金するためには、どんな形であれ多くの人の目に触れさせなければならない。そのために宣伝を出し、様々なプロットを試作しては捨て、人気のある設定に相乗りする。
 そうやって進み続けた結果、この作品で「NG」「悪い小説」とされる行動に至ることもあるだろう。

 この「換金市場」の何が課題になるかというと、新しいもの……目を見開かせるような作品が生まれにくくなる。
 全く新しいものは、当然誰も前例を持たない。どう話を始め、発展させ、オトすのかすら参考に出来ない。それが面白いのかすら分からない。
 温めに温めてから連載した自信作が全然伸びないというのは、そういった経緯もある。

 いい小説が売れるとは限らず、そして悪い小説が売れないとも限らない。
 ただ、今後を考えるなら「いい小説」の萌芽をより多くしていきたい……


 保証のある現状維持か、保証のない将来投資か。
 編集者に限らず、結構悩ましい問題だと思われる。

 これに関して個人的には割り切るしかないのだろう、と思っている。
 書籍化を目指すなら実現に向けて積極的に手を打つし、そうでないなら、書籍化からははっきり目を背け、自分のやりたいシーンを作り、やりたい表現をする。
 その結果、人気故か、愛着故か、我が子のように大切な作品がひとつでも生まれたら、御の字だろう。

 勿論、そういった作品を読む機会があるのなら、読者冥利に尽きる。

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