第8話 初めての能力の使い方

 鮮一は銃を構え、ベスティアへと向ける。

 本格的なサバゲーの感覚を思い出すんだ。俺がキーボードやコントローラーでやっていたのと違い、ゲームセンターのあの時の感覚でやれば、あるいは……!!


「やってやらぁああああ!!」


 雄たけびを上げながら、鮮一は銃をベスティアに向けた。

 発砲される弾丸は一匹の炎蝙蝠が羽で弾く。

 普通、それゲームなら当たってんだろ!? そこは。


「兄さん、このベスティアたちは炎を使います! 水の攻撃を!!」

「み、水!?」


 染織は瞳と武器の柄の色が変わる。

 瞳は本来彼女の瞳よりも澄んだスカイブルーに、柄は青色へ。

 俺の横に立ち、庇うように長剣を俺の前に構える。


「想像しなさい、そうすれば君の武器が答えてくれる」

「……わ、わかった!」


 後ろにいる白男の言葉を聞き俺は目を閉じる。 

 武器の形を変更せず、玉の部分を変えるイメージをする。

 体から何かが変わっていく感覚を覚える感覚を銃にイメージする。

 双銃は銃身が白のまま模様が青色に変わり、持ち手はスカイブルーと変わった。


「ほ、本当に変わった……?」

「兄さん、準備はいいですね?」

「ああ、行くぞ! 染織!」

「はい!」


 俺たちの目の前にいる、ベスティアという謎の怪物に二人で武器を構える。

 先に先陣を切るのは染織だ。

 鋭い切っ先は水を纏い、炎蝙蝠の胴体を切り裂く。


『ピギュアアアア!!』

「……やるなっ」


 銃口を染織の隣の炎蝙蝠の頭に氷の弾丸を放つ。

 炎蝙蝠は額に弾丸が当たると鳴き声も上げず一瞬で凍りづいた。

 

「兄さん、後もう少しです!」

「あ、ああ!!」


 俺はジャムシードを握り直す。

 想像しろ、あの蝙蝠を倒せるほどの、威力をアイツに!!


「くらえ!! 蝙蝠野郎!!」


 俺は水弾の威力を高め、水鉄砲の感覚で弾丸を発射する。

 さっきまでの弾よりもイメージをより高めた一発を撃ち込む。


『ピギュアァアア』

「よし!」

「やりましたね、兄さん!」


 炎蝙蝠は消えて行き、染織は俺の元へと駆け寄ってくる。

 背後にまだいた炎蝙蝠を連れて。


「!! 待て、染織! 後ろ――」

「え?」


 コン、と杖の音が響くのを感じると染織との間の空間が裂かれる。

 炎蝙蝠は空間の亀裂の中に入っていくと、再度コンと杖が叩く音が響くと空間は何事もなく消えた。


「戦場の油断は命取りだと言ったはずだよ、染織」

「す、すみません狂白」


 ……狂白っていうのか。彼の右手には白い杖が握られている。

 おそらく狂白がやったんだろう。


「時間が惜しい。終焉獣の駆除は我々がやる、一般人の保護はアドアステラの乗員たちに任せよう……わかっているね? 染織」

「はい、もちろんです」

「……は? アドアステラ?」


 聞いたことのない単語だ。というか、この銃だってそうだし、説明してもらわなくちゃいけないことが、たくさん……ある、のに。

 視界が眩む。なんでだ? ……急に、どうして。


「兄さん、アドアステラの航海者の方々が来てくれます。私たちは終焉獣を地球から追い出すので、少しここに留まっていてください」

「留まるって……染織はどこに行くんだよっ」

「大丈夫です、私たちは私たちの運命に従うだけです」

「運命、って……うっ」


 染織の言葉が、理解が上手くできない。

 眩暈にも似た感覚と、頭痛が襲う。


「聞いてください兄さん、貴方は普核の起動したばかりです。だから結界を張りますから、ここでしばらく待っていれば航海者が必ず来てくれます……これは、演算者に定められていることです」

「……演算、者?」

「染織、時間が惜しい。行くよ」

「わかっています、兄さん……また、どこかで会えますから」

「ま、って。しお、り……――――」

「また、どこかの運命の指し示す道先で会いましょう。兄さん」


 視界が完全に黒に染まった時、少し悲しそうに笑う染織の顔が。

 焼き付いて、離れなかった。



 ◆ ◇ ◆



「――っ、大丈夫ですか?」


 声がする。綺麗な声だ。鈴が転がった、声。


【ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン】


 響く怪物の悲鳴にも似た声が過ぎる中、わずかに開いた瞳で俺を心配げに声をかけてくる彼女の姿を捉えた。

 両肩を晒したタートルネック風の服。

 蜂蜜に似た金色の両目が、印象的だった。

 まるで、夢で見たサナーレアの髪と似た輝きに見えたから。


「ディック、お願いします」

「おうよ!」


 隣に赤毛の男が見えた気がしたが、ぼやけて上手く見れない。

 体を抱き上げられた感覚がする。

 後ろを見ながら、俺は一瞬見えた白い何かを見つめる。

 おそらく狂白、という男だろうか。

 終焉獣の胸元に何かをぶつかっていくのが見えた。


【ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオン】


 終焉獣の悲鳴にも似た絶叫を耳にしながら、俺は意識を手放した。

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