銀河スターライン

絵之色

第1話 宇宙ステーションEMSにて

 人類は文明を発展させ宇宙へと進出する時代になって3742年が経ち、完成された至高芸術と評された地球管理ステーション、略称EMS。

 地球と他の惑星の人類が行き来する交通手段とされる場所の一つである。

 そんなEMSにて、異常な事態が起きていた。


「――♪ ――――♪」


 EMS中央広場にあるグランドピアノが旋律が響く。

 眼帯にも見えなくもないが左目に蝶が寄生されているのか右側の顔に罅が入った謎の美女で、目を閉じながらピアノを弾いていた。

 白いリボンと一緒に編み込まれた髪が頭の上を一周し、一つ縛りにしている青みを帯びた銀髪が揺れる。彼女は蝶に拘りがあるのか、服にも蝶をイメージさせるデザインが施されている。唯一そのイメージから反しているところがあるとするならば……ドレス風の服の裾がカラスの翼のように別れ合っている点か。

 それも裾の下から黒から青へ、青から白へとグラデーションになっているのは、彼女なりの自嘲なのかもしれない。


「……いつまでピアノ弾いてるのー? 璃蝶りちょう


 髪先にピンクのメッシュが入った金髪のツインテールに猫耳風のヘッドフォンがトレードマークの少女はピアノを弾いていた彼女の名を呼ぶ。

 璃蝶はうっそりと口角を上げ、少女の方を振り向く。


「ああ、キティ……時刻通りですね。地球換算だと16時30分21秒、といったところでしょうか」

「頬の血、まだついてるよ? 食べ残しは嫌いなんじゃなかったっけ?」


 トントン、とキティは自分の頬を突き璃蝶に注意する。

 キティという少女は肩出しのピンクパーカーに袖に黒のラインが入っており、パーカーから中のタンクトップの上に苺色のベビードールに彼女の少女らしさとアピールしている。例えるなら、ストリート系ファッションにキュートな少女らしさがある衣服を身にまとっている。

 璃蝶は華奢な椅子から立ち上がると、淡い青色のルージュにインディゴブルー色のネイルが付いた指で触れる。


「ふふ、いいじゃありませんかぁ。もし、残ってるEMSスタッフが見たら……綺麗な悲鳴を上げてくれそうでしょう?」

「うわぁ……」


 氷を彷彿とさせる綺麗さを含んだおぞましい微笑をする彼女に、キティは嫌そうに言った。やはり人間味が薄いなと感じるキティは特別彼女に言わない。

 中央広場の真ん中でピアノを弾いている彼女の周囲は血を流して倒れているUESスタッフがそこら中に転がっている。

 しかも、それを全員のは、これから起こるメティスの脚本通りに従っている、というのは間違いない。彼女の名前も、青い蝶を彷彿とさせる見た目も、遺物ハンターを知っているなら知らない者はいないだろう。

 中央広場にやって来たキティは、璃蝶に頭を抱えた。


「……はぁ、キティ璃蝶は敵に回したくなーいっ」

わたくし、新鮮な生き血と肉塊が好物ですもの」

「吸血鬼みたいな可愛さはないよねぇ、アンタって」

「あら、わたくし綺麗な女だと思いますが?」

「あはは、突っ込まないよー? ……メティスの予知って本当に怖くなるなぁ。完璧な彼の手腕は惚れ惚れするけど」

「ふふふ、そうですねぇ」

「で? 次は終焉獣が地球に飛来するんだっけ?」


 璃蝶の言葉にキティは苦笑いを禁じえないが、軽く話題を変える。


「ええ、このまま時間通りではあれば……が家に帰る時に」

「そっか……じゃあ遺物ハンターとして、普核しんかく狩りの奴らの妨害をしなくちゃね」

「ふふ、可愛らしい子猫の顔をしていますよ。キティ」

「キティはいつだって可愛い猫ですー! 座標の確認しとくから」

「お願いします」

「じゃ通信室に行ってるね、もし邪魔するやつが来たらヤっておいてー」


 手を軽く上げて、キティは中央広場から去る。

 彼女は一人中央広場で他のスタッフの人間がやってきたら、殺す算段をしつつ冷血に青く色づく地球を一度眺める。


「ふふっ、楽しみだわ……これから、本当に始まるのですね」


 静かに冷温な指先でピアノの鍵盤の上をそっと触れる。

 悪魔よりも冷酷なこれからの現実を、冷血に彼女は口にした。


「では――――始めましょう。全惑星の全ての日常を塗り替え始める、今日という世界誕生にふさわしい一日を」


 璃蝶から発せられた言葉に同意するようにピアノの鍵盤はポロンと鳴った。

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