第2話 いつも通りだった俺の日常
夕焼けが差す教室で体を伸ばしながら口を大きく開けてあくびをした。
「……今日も、何とか終わったぁ」
「お、鮮一ー! 一緒に帰らねー?」
同じサークルの知り合いである
金髪に染めた髪に頭に緑のバンダナを巻いてストリート系のファッションに身を包む陽キャとも呼べる彼の周りには人が多い。
童顔だと俺のことを馬鹿にしない、いい奴でもある。
確か、彼も俺と同じ課題を教授から押し付けられていたはずだ。
「ごめん、今日は新たな新刊が俺のことを呼んでるから無理」
「たくよぉ、付き合い悪ーなぁ」
ノートや筆記用具を鞄に詰めて、肩にかける。
喜介に軽く片手を上げる。
「次の時に埋め合わせしとくから!」
「しょうがねえなぁ、絶対だぞ?」
「ん、じゃあなっ」
鮮一は急いで教室から出た。
酒は……大学二年で、もう20ではあるから飲める年ではある。が、漫画を買ったら、今日も必ずしなくてはならないノルマが待っている……行方不明の妹、
鮮一は急いで本屋で好きな作家を買うため、いつもの本屋へと向かうのだった。
夕焼けが照らす帰り道、夏の蝉の鳴き声が木霊した。鮮一にとって大学から本屋へと向かう道なりは踏みなれた道路である。
俺は本屋で新刊のコーナーに向かう。
「お、あったあった!」
今日のほしい新刊はSF作家兼ホラー作家のクリス・ファーバーが書いた小説である願装の人魚姫だ。どうもクリス先生の中で人魚姫シリーズでのモデルは彼に関わった女性陣がモデルとされている。
まぁ、ネットの書き込み程度の噂だし、実際かどうかは本人のSNSで語られるか、公式で発信されない限りわからない。クトゥルフで知られているラブクラフトの影響も受けた作家で彼の文章の表現が巧みで読みごたえがある。
まあ、それも日本語訳に翻訳してくれている
俺は会計に向かい、お金を払って店から出た。
「よーし、帰ろー」
胸にビニール袋に入った小説を手にし高揚感が湧いてくる。
捜索チラシを配ってから、後で小説を堪能することにして鮮一は帰宅することにした。自分の家は、都市から外れた山に構えている。
御曹司でもなんでもない、ただ単に祖父の気まぐれに建てられた屋敷だ。
日本を彷彿とさせる古めかしい建物ではなく、アンティーク感を感じさせる構造の建物に、随分と慣れたものだが……大学とまったく反対の方向にある物で、きっと自分が老けてジジィになったら絶対足腰悪いだろうなーと個人的に思ってる。
「……あー、運転免許ほしい。遠いわ」
大学から本屋へ、そして自宅へと帰るために一人、鮮一はひたすら歩いていた。
山の高い方にあるからコンビニで通販される時結構めちゃくちゃ遅かったりするのはしかたないのは田舎だからだろうか。
もちろん、俺の家の周辺は通路になる道路などの整備もされていない。バスなども通ってないので自分一人で歩いていくしかないわけである。
自転車を買って試した時期もあるが、山の中で自転車で向かうのは何かと道路に出ない限り意味がないのでほぼ使わない。
後で事故ったりしてタイヤを付け替えるほうが面倒だし金もかかる。
「はぁ、あっちぃ」
夕焼けに包まれる帰路の道に立ち向かいながら炎暑で熱の籠ったアスファルトをスニーカーで踏むのにも、サンダルに変えて歩きたくなってしまうほどだ。
夏でも午後だからもうだいぶ下がってきているとはいえ、やはり今年の夏は暑い。
――て。
「ん?」
何か声が聞こえた気がする。
――け、て。
「また、いつもの幻聴が……」
頭がひどく痛い。
この女性の声は、染織が行方不明になる前から聞こえてくる声だ。
いつもなら、泣き声だけだったというのに。
――、誰、か、――――け、て。
「!! ――――っ、」
ズキズキと脳に痛みが充満する。
今まで、正確に聞こえてこなかった女の声が脳内に響き渡る。
とにかく、帰らない、と。
しばらく家で休めば、落ち着くはずだ。
「――帰ら、ない……と、」
いつまでもボーっと立っていたら、車に轢かれかねない。
鮮一は早く自宅へと戻ることにした。
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