第5話 包帯の男 狂白
鮮一は必死に山の頂上まで駆け走り、ようやく一番高いと思われる場所までやって来た。
「――――はぁ、ふぅ、っは……ここなら、問題、ない、かっ」
膝で呼吸して、なんとか息を整える。
山の頂上まで登って来たのもあり、さっきよりは人々の悲鳴が聞こえなくなった。その点について素直に自分の精神が混乱しなくて済む。本来なら、他の人々を助けるのが漫画の主人公なんだろうが、自分の命を保証できない状態で行くほど自分は無謀ではない。
「……喜介たちは、無事なのか?」
数少ない友人に対して、一抹の不安が過る。
この絶望的な状況下なのだ、下手に友人の安否を思考していても無駄だと切してられるのもわかっている。だが、アイツは、喜介は本当にいい奴なのだ。
だから、心配になるのも必然で――――。
『兄さん、こっちです』
「―――――っ、頭が、割れるっ」
さっきよりも染織の声が大きくなってきているのを感じるたびに頭痛が走る。鮮一はクラクラとする頭を抑えた。
【ウォオオオオオオオオオオオオオオン】
「な、なんだ――!?」
あの巨大の巨人の叫びが聞こえてくると、周囲から蝙蝠を想像させつつ黒い影でできた怪物が襲って来る。
【キュルアアアアア!!】
「な、なんなんだ!? これ!!」
もしかして、あの巨人が生み出した怪物……!?
いや、他の惑星からの何かの生物だったりするか!? いや、唐突過ぎて理解ができない……!!
【キュルアアアア!!】
「うわ!!」
怪物が音波攻撃をしてきて、避けることができず耳を抑えた。
クラクラする……!! 単身で怪物が勢いよく襲い掛かってくる。
【キュルアアアァ!!】
「うわぁああああああああああ!!」
怪物はタックルしてきて俺は倒れ怪物に覆いかぶされる。
気が付けば追撃として首筋を噛んできた。
首筋から血が大量に飛び出る感覚を覚える。
――あ、これ、頸動脈……切れて、ない?
すうっと視界が眩んできて、自分の命が絶命する瞬間だと悟った。
「――――狂い果てろ、愚かな断片よ」
男の声が、一瞬聞こえて俺の思考はそこで停止した。
◇ ◇ ◇
【キュイイ!!】
「邪魔だ」
白いコートを纏った体のあちこちに包帯を巻いた面長の男は怪物であるレムレスを鮮一から刀で切り捨てる。
顔につけた包帯から漏れる右目のローズ色の瞳が、冷酷に見据える。
まだ怪物たちは鮮一の元へと集まってくる中男は周囲を見ずに鮮一の前に屈んだ。
「……染織」
「
濡羽色の黒髪。そして本来の青色の瞳は、兄である鮮一郎と兄妹としての共通点と言えよう。袖なしの黒いインナーの上にハーネスが付いている肩出しの白いワンピースを着ている彼女は悲し気に目を伏せる。
兄からもらったという白いリボンで髪につけている健気さのある彼女に、もう少し運命的な出会いをさせてやりたかったが、今回は難しいようだ。
狂白と呼ばれた男は鮮一の胸元に自分の手を当てる。
「なら、なおさら都合がいい……普核狩り共に盗まれる前に彼の普核の施術を施そう」
「……お願いします狂白。その間、私がベスティアたちを引き付けます」
「頼むよ」
染織は兄のために、ベスティアたちの駆逐を開始した。
彼女に戦闘は任せていいだろう、私が戦闘の技術を教え込んだ師であるのだから。そんなことよりも、今は私がすべきことは彼の普核を起動させることだ。鮮一の目を黒手袋をつけた指先で目を伏せさせてから、彼の胸元に片手をそっと置く。
狂白は、普核を起動させる祝詞を唱えた。
「普く
狂白と鮮一郎の周辺に、魔法陣と酷似している黒い
鮮一の目が開かれ、その瞳はおどろおどろしく赤い。
『№2927226、灯の
鮮一は口を開く、それは彼自身の声でなく普核の持つ彼女の声だ。
「№2927226、灯の燦透蝋よ――一抹の生を持った者の末路を、変革せよ」
『受諾。三叉路に刻まれた
鮮一郎は口を閉じ、彼の周辺から光が溢れ出す。
「さぁ――――目覚めなさい、衛藤鮮一」
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