何度も何度も何度だって

藤泉都理

何度も何度も何度だって




 普段は、ふんわりおっとりしたあの子が。

 ビシッキリリって表情も雰囲気も豹変する姿を見た時。

 魂がビリリって震えるんだ。




神田かんださん。お願いしますね」

「はい」


 先生に漢字の問題を解くように言われた神田さんが席を立った音がした時。

 ぼくの心臓はいつもよりも早く大きく鳴っていた。


(きた!)


 一番前の一番端、廊下側に座るぼくは、ばっちり神田さんの表情が見える。

 教壇に上がった神田さんが、白いチョークを持った。

 その瞬間。

 ぼくの魂がビリリって震えるんだ。


 威厳。

 鋭利。

 剛毅。

 粛然。

 精悍。

 闘争。

 冷徹。


 カッカカッカ。

 迷いなくチョークを黒板に当てて文字を書いていく神田さんは、とてもかっこいい。


 カッカカッカ。

 時に力強く時に軽快にチョークを黒板に当てて文字を書いていく神田さんを見ていると、お兄ちゃんが勉強していた難しい漢字が次から次へと頭に思い浮かぶんだ。




「神田さん。ありがとう。いつも迷いなく勇ましいね。えーと。あ~。これも。これも。惜しい。こっちはここね、一本縦線が足りなくて、こっちはここ、一本縦線が多かった。こうね。覚えたかな?」

「はい。あ~。自信あったのになあ」


 チョークを置いた時、神田さんはいつものふんわりおっとりした女の子になる。

 その瞬間を見たぼくの心臓は、ふわふわしてくすぐったくなる。




 つまり。

 うーんと。

 ぼくは何度も何度もこの教室で、チョークを持っていない神田さんにも、チョークを持っている神田さんにも。

 恋を、しているんだなあ。











(2023.7.24)



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何度も何度も何度だって 藤泉都理 @fujitori

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