いくらなんでもこのシチュエーションで恋に落ちるわけにはいかない。

pico

ギャルの破壊力






「ウケる。なにこの寝方」


 ピロロン。

 スマホのシャッター音が聞こえて、俺はのろりと目を開けた。


 眼前には、黒板。

 あまりにも眠すぎて、明日の日直の名前を書いてそのまま寝ていたらしい。


「チョークもったまま黒板におでこ付けて寝てる人、初めて見たんだけど」


 のっそり首をもたげて、声のほうに顔を向ける。


 そこに居たのは、同じクラスの金髪ギャル。

 スマホを構えたままなぜか、俺を見て驚いた顔をしている。


「え、金…………ブフゥーーッッ!!!!」


 ……かと思ったら、突然吹き出した。


「ちょ、ま、なにごと?! そんなミラクルある!?

 明日の日直って……は?! ギャハハハハッッ!!!!!」

「…………」


 寝ぼけているのもあって、ギャルが笑っている理由がわからない。


 明日の日直がなんだっていうんだ、と、俺はさっきチョークで書いた名前を見直す。


 白金さんと、児玉くん。

 別になにもおかしなことはないじゃないか。


「待って、写真撮ったげる。

 ……ぶふっ……」


 笑いが堪えきれない様子で、ギャルは正面から俺の顔を写真におさめた。


「ほら、見てみ。こんなん絶対笑うから」


 そう言われて覗きこんだ画面には、俺のまぬけ面の写真。

 そして、写真の中の俺の額には、チョークの文字が写ってしまっている。


「金……玉…………?」

「ぶゎははははははっっ!! もう、だめ、お腹痛い……!!!」


 そう。

 黒板にもたれて眠ったせいで、チョークで書かれた日直の名前が一部分、額に写ってしまったのだ。


 明日の日直は、白金さんと児玉くん。

 白金さんの「金」と、児玉くんの「玉」の部分だけが、見事に俺の額に写ってしまっていたのだ。


 鏡文字になっているとはいえ、これは完全なるKINTAMAであり、TAMAKINだ。


 ヤバい。これは死ぬほど、恥ずかしい。


「ふふっ、ね、ミラクルっしょ?」

「これは……笑うわ」

「でしょお!? ふふ、ヤダもう、それ早く消しな?」


 それもそうだと、俺は立ち上がって教室を出ようとする。

 ……が、それをギャルに引き止められた。


「ちょっ、キミ、それで廊下でるのヤバいから! ちょっと待ってて」


 そう言われて、俺は再び椅子に座っておとなしくギャルを待った。


 あまりの恥ずかしさに、笑うことすらできない。

 椅子に座ったまま固まっていると、ギャルは1分とたたないうちに戻ってきた。


「ハンカチ濡らしてきた。拭いてあげるよ」

「え、ハンカチ汚れるよ」

「あはは、別にいーって。そのままでいるほうがヤバいって」


 ギャルはそう言うと、腰をかがめて俺の額にハンカチを当てた。

 ハンカチがひやりとして、気持ちいい。


「ぶっ……ふふっ……」

「……すげー笑うじゃん。ヘンタイなんだね」

「いや、変態はどっちだよって話だから。まじトラップだし。罠だよ、罠」


 ギャルの顔が近い。ぷっくりとしたつややかな唇に、つい視線がいってしまう。


 それに、いいにおいがする。

 女子とこんな距離で接することがないせいか、妙に意識してしまう。


「チョークってなかなか落ちないんだなー。もうちょっと……」


 ギャルはさらに顔を近づけてくる。

 思わず顔をそむけてしまいそうになったが、それでは額を拭けなくなるのでなんとか我慢した。


は消えた。……ぶふふっ」


 笑いをこらえながら、俺の額を必死に拭くギャル。

 そのときふいに、その胸元に揺れる豊満なものの存在に気付いてしまった。


(あぁ、これはヤバい)


 放課後になり、エアコンの切れた教室。うっすらと汗のにじむ首筋と、鎖骨。

 肩にかかる、やわらかそうな髪。


 この距離、匂い、そして物理的な攻撃。


(触りたいとか、思っちゃダメだ。絶対、絶対ダメだ)


 もしこれで惚れたら、「好きになったきっかけはKINTAMAです」って言わなきゃいけなくなる。

 そんなの、死ぬほどかっこ悪い。


「とれたよー! って、なんか顔赤くない?」

「ない、ない。大丈夫」

「あ、もしかして照れた~? キミもかわいいとこあるんだねー」

「照れてないし」


 ギャルは俺をさんざんからかって、「そーいや友達待たせてたんだ」と帰っていった。


 ギャルを見送ると、俺は椅子の背にもたれ、ずるずると天井を仰ぐ。

 なんだか、どっと疲れてしまった。


「ギャルの破壊力……半端ねー……」


 あぁ、神様願わくば。

 あの子が今日のことを忘れますように。


(忘れて、そんで新たなきっかけとかそういうので出会い直して、俺のことを好きになって……)


 って、あれ。やっぱもう手遅れじゃん。


 これ、完全に落ちてるやつじゃん。












「いくらなんでもこのシチュエーションで恋に落ちるわけにはいかない。」

Fin.










この続きは、「となりの席のギャルが筋肉に目覚めて俺を触診してきてかわいい。」へ……(* ˘ ³˘)♡*

https://kakuyomu.jp/works/16817330659263285037

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いくらなんでもこのシチュエーションで恋に落ちるわけにはいかない。 pico @kajupico

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