寿命の値段

朝香るか

第1話 寿命の占える場所

 高校からの帰り道。薄暗くなった空を見ながら女子生徒はため息を落とす。

「暇だなぁ」

 わかっている。これから職業人生をしていかないといけないことは。

「何もやりたくないんだよね」

 みんなやりたいことがある。それぞれにバイトしたり、勉強したりしている。

 責任も重いだろうが、うらやましい。

 どんな職業紹介の本を見ても、やりたいことは思い浮かばない。

「どーしよう」

 悩む高校2年生。

 みんなそれぞれの目指すものがあり、きちんと努力している。

 私は……何もない。

 みんなは生きるために頑張っている。

 私は頑張れない。生きる目標が見いだせない。

 フラッと目についた寿命を占う場所に立ち寄った。

『占いできます・寿命見れます・買い取れます』

 胡散臭いけど、本当にそうなら寿命を売れるだろうか?


 ☆☆

 店内には黒色のローブをかぶった男性が一人いる。


 恐らく占いの種類はたくさんあるために様々な道具を手が届く範囲に置いている。

 ざっと見て占星術、タロット、

 そのほかにも何に使うのかよくわからない怪しい器具が並んでいる。

 何に使うのか素人には想像ができないものばかりだ。 

 受付として座っている男性には何か聞く前にきかれてしまった。

「あんた、そんなに寿命があるのになんでそんなに暇そうなんだ」

 制服姿でこんな怪しいお店に出入りしていたら、そういわれるかもしれない。


「……やりたいことがないの」

「そうかい。それで寿命の取引をするつもりかい?」

「出来ればしたいかなと思って」

 どこをどうやってお金にするのかわからないが、

 働かなくても生活できるかもしれない。

「煮え切らない返事だな。そんなことだったら帰ったほうが身のためだ」

「私、どれくらい生きるの?」

「本当ならお金とるところだが、特別に教えてやろう。あんた、今のままなら118まで生きるよ」

「――そんなに」


 生に執着はない。


 30くらいで終わると思っていたのに。

「あんた、ウチに来る気はないか?」

 悪魔のささやきなのか、生きる目標なのか。

「どういう意味で?」

「この店の後継者としてさ」

 わからないけれども、その誘い乗ることにする。

「あなた、お名前は?」

「俺はS」

「S、あなたは寿命の取引したことはあるの?」

 Sはタロットカードをよくよく混ぜていたり、

 丹念にカードを拭いてみたりと整備をしているようだった。

「ないね。ないから自分の寿命は見当もつかない。

 やれば、幾歳から何年分ひきますって出るからおおよそわかるもんだが、

 うさん臭くてね」


 立っているのが疲れてきたので、来客用の椅子に腰かける。


「こんなにも胡散臭いとこで働いているのに?」


「まぁ、いろいろあってここにいさせてもらっている。そして後継者を探していくに越したことはない。人の寿命は見えても自分の寿命は案外わからんもんさ」


「ふーん。じゃあ、長生きしちゃうかもしれないね」


「平均寿命に換算するとまだ生きるはずだが、どうなるかなんてわからないからな」

「それもそうね」

 人はいつどうなるかわからない生き物だ。

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