第4話 死神との取引
本日、出勤したら、いつになくSはしゃっきりとした服装をしていた。
ローブは相変わらずだが、その下はきっちりとした高級スーツで決めている。
「さぁ、Z。今日は死神とのご対面だ」
月末にマルがしてあったのは死神との対談があるかららしい。
「あなたも死神みたいな格好しているわよ」
Sに大きな鎌を持たせたら、いい感じに死神の仮装が出来上がる。
「どんな神様なのかしら?」
「黒いやつさ」
Sが言ったとたんにSの背後に黒い影が現れた。
「死神番号22のAさ。よろしく。むすめさん」
確かに黒い奴だった。意外にしっかり挨拶するし、声の調子もSよりも明るい。容姿は黒子みたいな感じだ。
彼は何か催促するように右手を出してきた。
「へい。これが交換した寿命の記録だ」
「間違いのないようにしろよ」
「へいへい。何重にもチャックしてます」
「ならいい」
「ところで、そのむすめさんはなんだ」
「新人です。俺がもし死んだときに後継者を作っていくことは必要だと思うんで」
「……まだまだ先の話だと思うがな」
「だといいんですがね」
「Zっていいます。いつか担当するかもしれませんので」
「いつか? もう担当しているじゃないか。責任者は君になっているぞ」
「え?」
Sを見るが、仏頂面で何も読み取れない。
年の功というべきか、無愛想と表現すべきか迷う。
「知りませんでした。以後責任感を持って仕事します」
「手伝いのつもりだったのか。おい、S。きちんと教育するんだな」
「へい」
「この世界は精神を病むものが多いから、君も途中で人生を投げないようにすることだ」
「はい」
この口ぶりから推察すると、
後継者にしたい人は今までにいたが精神を病んでなくなったということ。
(何も告げないSってドSなのかもしれないな)
「気をつけろよ。この男は曲者だ」
死神に言われるS。要注意人物だ。
自分の身は自分で守る。
これが名目上、平和な日本といえど、鉄則なのかもしれない。
(甘い自分は捨てよう)
さしあたって考えるべきは自分の進路だ。
ここで、アルバイトとしてのお金はもらっているが、
これからの人生を考えないといけない。
家族のために命を売らないような生き方をしたいと思った。
「ねぇ。S、就職したら給与上がるの?」
今の給料のままでは生活できない。
「ああ。もちろんさ。大学の新卒レベルの給与は出してやるよ」
「なら、ここに決めるわ」
「気を付けるんだな。金の心配よりも自分のメンタルのケアを沢山持つことだ」
「わかったわ」
その夜のこと。
初めて死神を見たからか意味深なSのセリフのせいか悪夢を見た。
死神に首を切られる夢だった。首をきられ、家族の前で晒される。
痛覚のある夢だから思わず叫んだ。
「――夢か」
店長であるSはこんな夢を見るんだろうか。
他の後継者候補もこんな悪夢を見たのだろうか。
新米だから謎が謎を呼ぶ。
「喫緊の課題はメンタルを安定させることだよな」
とりあえず手っ取り早いのはノートに書いて不安や不満を一掃するやり方だ。
「まだお金ないしね」
お金があったらカウンセラーに相談したりマッサージをしてリラックスしたりといった方法もあるのだろうが、金欠だから仕方ない。
この夜ざっと書いただけで2ページほどにびっしりと埋め尽くされた。
「こんなに不安があったのね」
死神のこと、この先のこと、自分の命はどのぐらいなのか。
死神は本当に害がないものなのか。
「さりげなく聞いてみないとね」
自分で調べるよりも店主に聞くのがいいだろう。
「書けるだけ書いたし、もうひと眠りしよう」
この時午前3時。まだ深夜の時間帯だ。
今度の眠りは心地いいことを願いながらベッドにもぐりこんだ。
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