第7話 Sのこと
私が、専門学校を晴れて卒業したと店主のSに報告した。
専門学校で取れる資格は取り切ったし、
これからも民間資格ではあるけれど取っていくことは可能だ。
その次の日、Sは店を引退するといった。
「は?」
「だから店をお前に引き継ぐって言っているんだ」
「なんでよ」
「海外旅行、行くんだよ」
「どこの国に行くの?」
Sは嬉しそうに行く国を列挙しはじめた。
「今まで貯めた金で、オーストラリア行ってマレーシア行って。
それから中国行って台湾行って韓国行って――」
行く予定の国が多くて把握が面倒だ。
「……合計で何か国行く予定なの?」
「合計8か国だな。それから日本に帰ってくる」
「そのあとは?」
「調理師免許取ってオムライス専門店に行きたいんだなぁ。これが」
彼に何があったんだろう。
今までとまるで掠りもしない働きかただ。
専門学校を無事に卒業して、
これからはしっかりと働けと言われたばかりだった。
「死神22のAさん、Sが店辞めるって」
「そうかい。どうすることもできないんだ。死なないだけましよな」
「そう……ね」
☆☆☆
彼女はがっくりと肩を落としていた。
まだまだSとの日々が続いていくと甘えがあったことは否めない。
死神22のAは淡々と言葉を紡ぐ。
「まぁ、こういうときのためにSは君を育ててきたんだし、このままつづけてみたらどうだ?」
「……そうね」
やはり、寿命を扱うのは人間には荷が重いのだろう。
この娘は大丈夫だろうか。
「ねぇ、死神22のAさん」
「なんだ?」
「寿命の取引をする人を止めてはダメかしら?」
「……駄目ではない。だが、相手は数百万単位を期待してくるだろう。君に止められるものかね?」
「数百万は止められないけれど、10万程度にしかならないお客には貸すなりあげるなりしたいものだわ」
「日本の法律に抵触しないかな。店がなくならないようなら構わない」
「調べてみないとね」
Z個人的には、残り少ない人生なのにさらに短くさせることを良しとするのが店主の姿勢としてどうなのか疑問だった。
☆☆☆
(このZという女、やる気があっていいことだが、どこかで折れないといいが)
死神は知っている。
精神に強いあのSでさえ、毎日のように死を匂わす日記を書いていた。
やはり人間には寿命を操作する人知を超えた所業はストレスとやらを抱え、
発散することが難しいのだろう。
それでもSは自分のしたいことを書き連ね、実行に移そうとしている。
Sは死を選ぶ前に、自分自身ができることをできるだけしようとしている。
(人間として強い男だな)
他の店でも継続させるというのは難しく、
店を開いてはメンタルの関係で廃れ、
人間界のお金の問題でも廃れていく。
人間界のことを口に出してはならない。
これは死神界の鉄則だ。
ただ死神の心に留めておくだけだ。
後継者にも何も話すことはない。
後継者は自分で変革し、その時代に合ったサービスを提供していくのだろう。
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