第15話 大国への道!?

 集まったのは三人。


 フラテス国王ジーアと、デュラ、そしてグランティーヌ。三人は、国王ジーアの書斎に集まり、一通の手紙を読んでいた。


 カナチスから戻って丸三日が過ぎ、ハイルから、正式な詫び状と、今回の婚約を正式に解消するための書状が届いたのだ。

 これは国としての正式な手続きであり、グランティーヌは晴れて婚約破棄を果たしたのである。

 ただ、双子たちはやる気満々のようだが。


「……と、いうことで、婚約の話は白紙に戻すということだ。しかし、双子たちはグランティーヌを諦めていないようだな」

 グランティーヌ宛ての恋文が二通、同封されていた。これでもか、というほどの甘い言葉が並んでいるその手紙を、グランティーヌは苦い顔で読んでいた。

「わらわにその気はないというのに」

 激甘文書から顔を上げ、むくれる。


「まぁ、双子の件は別として、今回の一件は、ハイルもやっとエリーナのひたむきな愛に気付いたわけだし、結果オーライだったな。さすが我が娘」

 ジーアがグランティーヌの頭を撫でながら声高らかに笑う。


「あの、差し出がましいようですが……、」

 デュラが口を挟む。

「ん?」

「陛下はどうしてこの縁談をすんなりと受けたのですか?」

 ずっと気になっていたことを訊ねる。


 双子とグランティーヌを会わせたかった、というのはまだ理解できないこともないが、それなら婚約を受諾するなどという手続きを踏まなくても、何か理由を付けて会わせればよかっただけのこと。

 それともサナの遺言ということで、半ば本気の婚約だったのだろうか?

「わらわも知りたいぞ。あんな噂がある双子に、なぜわらわを売ろうとしたのじゃ?」

 言い方!

「やはり、サナ様の遺言だったから……?」

 二人が身を乗り出す。


「うむ、それもあるがな。私は、縁談話をもらったとき、ふと、エリーナのことが気になったんだ。彼女はこの話を承諾しているのだろうか、と。彼女がサナをどう見ていたか、知っているからね」

 腕を組み、遠くを見つめる。

「父上は、母上がエリーナ殿に嫌われていることを知っておったのか?」

「知っていた。サナはそのことで随分心を痛めていたもんだ。だがエリーナに子供が出来て、そんな関係も終わると思っていた。ハイルもエリーナの妊娠をとても喜んでいたからな。だからサナは、」

「これからは家族ぐるみで付き合っていきたいと?」

 グランティーヌが続ける。

 きっと優しい母ならそう思ったのではないか、と考えたのだ。


「そうだよ、ティン。エリーナと昔のように仲良く付き合いたかったのだろう」

「昔は仲がよろしかったのですか?」

 デュラが口を挟む。

「ああ。あの二人は従姉妹だしね」

「ええっ?」

 二人同時。

「では、わらわとエリーナ殿は……、」

「そう。血縁関係にあるのだよ」

「そうであったか……、」


 サナに似ている、というだけで殺されかけたのは事実。

 だが、グランティーヌはエリーナを責めようという気持ちには、全くならなかった。

 片想いの辛さは、わかる。


「私は、ハイルとエリーナが仲良くやっているのか、それも確かめたかったんだよ。正式な場ではきっと本当の姿を見せないだろうと思ってな。ティンの訪問は、二人を大いに刺激しただろう?」

 刺激しすぎだ。

「それに、噂の双子が本当はどんな子たちなのかを知りたかった」

 今後、国と国との付き合いをする彼らとは、切っても切れぬ縁になるはず。今のうちに見極める必要があったのだ。噂の真相を。

 これも、畏まった場では本性を見せないだろうと踏んでいた。


「とても単純なガキどもじゃったぞ」

 グランティーヌが大人びた仕草で、言う。デュラがそんなグランティーヌを見て思わず吹き出した。

「ですが、あのプロポーズは素敵でしたよ。ねぇ、姫?」

 真っ赤になっていたグランティーヌを思い出すと、更に笑いがこみ上げる。グランティーヌでもあんな顔をするんだ、などと、口には出さないが、つい考えてしまう。

「笑い事ではないぞっ、あんな、何もない街道のど真ん中で、両手掴まれてプロポーズなどと…、」

「姫は人気者ですからねぇ」

 からかうように、そう声を掛けると、


「そうじゃのぅ、わらわは人気者なのじゃ。デュラもわらわが好きだしのぅ?」

 と、意味深な口ぶりでにやけた顔を見せるグランティーヌ。

「な、何の話ですかっ」

 否定したいが否定も出来ず、適当に誤魔化そうとすると、国王ジーアが急に背筋を伸ばす。


「……そのことだがね、デュラ、」

 コホン、と咳払いなどして、ジーア。

「あ、はいっ」

 背筋を伸ばし、デュラ。

「んー、昨夜ティンから聞いたのだがね、」

「は?」

 グランティーヌが顔を赤らめる。逆にジーアは、引きつっていた。嫌な予感が過ぎる。一体何の話だ?


「二人は、その、そういう関係なのかね?」

 思わずのけぞる。

「……ちょっ、待ってください、陛下まで何をおっしゃるんですか? そんなわけないでしょうっ。私はただの近衛ですよっ?」

 全力で答える。

「しかし、聞いたところによるとティンと……しようとしたらしいな」


 うわぁぁぁぁぁ!


「陛下っ。あれは流れ上、なんというかっ、ただのお芝居で、ですねぇ」

 慌てふためき、弁明する。

「……キスしようとしたではないか」

 グランティーヌがもじもじしながらデュラを見上げた。


 クラッ


 目の前が真っ白になりそうだ。


「姫っ! あれはっ、あれは違いますっ」

 そうだ。

 絶対に違う!!

 場の流れというか、気の迷いというか、そうだ! 出血による貧血が引き起こした眩暈による気の迷いという名の過ち!!


「怒らないから言ってみたまえ。本当のところ、どうなんだね? デュラ、」

 眉間に皺を寄せ、ジーアが詰め寄る。

「わらわの心を弄んだのかっ?」

 胸の前で手を組み、小首を傾げてグランティーヌが目をパチパチさせた。

「違いますって~!」


(はぁぁ~)


 心の中で大きなため息をつくデュラ。

「姫もあと二年したらレグラント校へ入学ですよ? そこで、ほら、素敵な男性と出会うかもしれませんし、カナチスの双子王子もおりますし、私などに構っていられるのもあと少しですから、ねっ?」

 子供騙しの言い訳に過ぎないとは思うが、適当な未来にすべてを託す。

「子供騙しの言い訳など聞きとうないわっ」

 すぐに見破られてしまう。


「父上、今のうちに申しておく。わらわはデュラのいないバルジニアになど行かぬ! 学校になど行かずとも、わらわは頭が良いからのう!」

 ダンッとテーブルを叩き、言い放つ。

「そうはいかん。大国にて学ぶべきは勉学だけではないのだよ、グランティーヌ。レグラント校は素晴らしい学校だ。絶対に入学してもらう」

「では、デュラの件は?」

「お前がどうしてもというのなら、剣術の講師としてでもレグラント校に送り込めばよかろう」

「なるほど! 父上は頭がキレるのぅ! 先生と生徒じゃな…、」

 手を叩くグランティーヌと、大きく仰け反るデュラ。


「陛下!何を仰っているのですっ? 私は大国になど、」

「一国の主である私の命だよ、デュラ。その時は諦めて、大国バルジニアに出向してもらうぞ」

 NOとは言わせない、と言わんばかりの物言いだ。

「そんなぁ…、」


 あと二年経てばグランティーヌから解放されると思っていたデュラの淡い期待は、どうやら消え去っていった。


 小国の姫、グランティーヌ専属近衛、デュラの溜息は、まだまだ続くのである。



~FIN~


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風のまにまに ~小国の姫は専属近衛にお熱です~ にわ冬莉 @niwa-touri

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