第2話 おわり

 書き終わった私にお茶を渡してくれた。まーくんすき。


「お疲れ様。でも災難だったね」


「何が?」

「若塚くんに頼まれたんでしょ、若塚くんって世渡り上手そうだよね」

 若塚はマジョリティの世界にいるクラスメイトだ。私がいる世界で、私とくっつけばいいのにと思われている男子。

 悪ぶっている子ども、そんな奴私は大嫌いだけど、多分そのうち告られる。


「あ、あんさ」


「なに?」


「今から私とマクド行かない?」

 世界が止まった、私の世界もまーくんの世界もおそらく止まった。


「あのスタバは」

 私の世界の事を考えてくれたのだろう。そういう聡いところも好き。


「フラペチーノ飲み飽きた」


「でも、カラオケは」

 なんだ、まーくんしっかり私の事見ているじゃん。それを私は嬉しいと思った。


「昨日お風呂で歌ったから喉の調子悪いし」


「お風呂で歌ったら、湿気で喉にいいのにね。おかしい」

 口では笑っているのに、目が一切笑っていない。そういうところも好き。

 職員室で真宵に日誌を差し出すと、今日もお疲れ様と言って手を振って私たちを見送った。まーくんは右の口角を上げてペコリと礼をした。それはまーくんの笑みをかみ殺している顔で私の好きなまーくんの顔ベスト3に入っている。


「あんたさ」


「何、池内さん」

 前を歩くまーくんのポニーテールが揺れている。微妙に道路側に歩いてくれるまーくんが好き。


「数学得意じゃないっしょ」


「そんなことまで分かっているってすごいね。その観察眼は見習いたいよ」

 違うの。まーくんのことだから分かるの。

 自重しよう。あまりにまーくん情報を羅列すると気持ち悪いって思われる。感心した顔も好き。もっと話したくなっちゃう。自重自重。


「数学得意だから教えてあげてもいいよ」


「あ、そうなんだ。池内さんって見かけによらず話しやすいね」

 まーくん、すごいいい子。可愛い好き。まーくんと歩いていると時間があっという間に経つ。駅前まで10分くらいかかるはずなのに、もうマクドだ。


「別に、ふつーだし」

 私はまーくんの目を見られない、ドキドキする。


「あれ? 池ちゃんじゃん。何してんの」

 登美、登美晶子が道路の向こうからかけてきた。


「スタバは?」


「そりゃこっちのセリフよ。なんでコイツといるのよ」


「日誌待ってくれて、お礼も兼ねてマクドに行こうと思って」


「ふーん、珍しいね」

 私は見ない。まーくんの顔を見ない。だから、まーくんがどんな表情をしているかは分からない。でも気配はするの。

 きっと髪を直しているし、服だって払っているし、何とか笑おうとしている。この3年間、まーくんを見て来たから、私はよく分かっている。

 3年になってからというものの、私の大好きなまーくんは真宵に憧れ、登美に恋をしている。大人に憧れながら、同級生に恋が出来る器用さが好き。真宵は尊敬なのだろう。


「登美は?」


「あたし、弟のお迎えに行かないといけなくて。じゃ、陰キャくん。姫をしっかり家まで送り届けるのだぞ。さらば」

 そう言って、登美は駅へ走って行った。


「あんさ、あんた私に数学教わる気ないっしょ」

 さようなら。


「い、いやそんなことないけど」

 さようなら。


「取り敢えず、マクドに行かない?」

 私の初恋。


「お腹減ったから、なんかおごれし、大体あんた分かりやす過ぎ」

「女の子って鋭いね」

 でも、そういう素直なところは大好き。


「折り入って、池内さんに相談があるんだけど」

 神妙な顔できっとまーくんは言うのだ。


「登美さん、何が好き?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

まーくん、だーいすき ハナビシトモエ @sikasann

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ