第11話

車内にはヴルフェン男爵夫人と私、皇帝、皇太后が乗り合い、存在感マジ空気になったヴルフェン男爵夫人と人をまるで珍獣かのように頭から下までじろじろと見てくるゾフィー皇太后、惚けた顔で見つめてくる皇帝、悟りを開く修行僧のごとく無心になる私と言う控えめに言って地獄な環境です。

早く着かないかしらと思いながら揺られています。

やっとホテルに着いて早々と出て、御礼を丁寧に申し上げました。


「シシィ、また会いにくるよ」


「姉にそう申し伝えておきます」


と笑顔で言い放ち、一礼を素早くして

部屋へ直行、そしてお行儀をかなぐり捨ててベッドにダイブしました。


「シシィ、一体どうしたの」


私のあまりの不作法さに驚いたのかルドヴィカお母さんが部屋にノックもせずに入ってきました。


「ママ、どうしたのじゃないわよ、皇帝陛下にカフェにいるって言ったせいで出会した挙句に皇太后陛下もご一緒でドッと疲れたわよ」


「皇帝陛下に聞かれて答えないわけには行かないでしょ、今から私はゾフィー姉さんのとこに行ってきますから良い子にしててよ」


「何しにいくのよ?」


「あなたがさっき帰ってきた時に、託けをいただいてね、だから行かないと」


「嫌な予感しかしないわ」


「不吉なこと言わないでちょうだい、じゃあ行ってくるわ」


ルドヴィカお母さんはそう言うと部屋をバタバタと出て行きました。

シシィは生意気だけどネネーは慎み深いし、皇后にやはり相応しいからネネーにします。

って話しかも知れないわね、でも私が喋りまくったことに対して嫌味を言われそうだわ面倒くさい、怠いわ……。


「お姫様、寛がれるのでしたらお着替えをしませんと……」


「ローディありがとう、着替えるわ」


私は世話係のローディにお礼を言って楽な格好に着替えた。


とにかく、良くも悪くも影響は与えたわけだから後のことは流れに任せよう。

カール・ルートヴィヒの婚約は無かった話になるかもしれない、もともと明確な約束でもないわけだから私としてはいい話だわ。

ハプスブルク家と関わるとろくなことがこの先ないもの。

私はそう思いながらディナーに行くまでたっぷり仮眠を取った。

準備のために起こされると厚化粧するのも馬鹿馬鹿しいと思うようになり、最小限にして支度を済ませた。

へレーネの方は美しい流行のドレスに髪飾り、メイクどれもが素晴らしく、ロマンチックな美しさを醸し出していた。

これなら皇帝はへレーネとの婚約を決めるだろう。


「シシィ、もう少しマシなドレスやアクセサリーはなかったの?」


「あら、ママ、カール・ルートヴィヒから貰った指輪をつけているし、きちんとしたドレスよ、第一私は引き立て役だから地味なくらいがいいのよ」


私がそう言うと不満げな様子でお母様は私を見つめて


「仕方ないわ、時間もないし、お願いだからお行儀よく、淑女らしく振る舞いなさいね」


そう言われて馬車に乗り込み晩餐会へ向かう。

夜の道は暗く、先が見えず何やら気持ちがドンドン沈んでいくようだった。

そして着くと機械的に優雅なご挨拶、カール・ルートヴィヒとのありきたりな会話、そして席にリードされて座る。

何もかもが予定通りに動いている。

違うのはゾフィー皇太后もお母さんもへレーネをわざとらしく褒めたりせずに普通の会話しかしていない。

もしかしたらお見合い自体がパーになったのかも知れない。

バイエルン王国の分家は身分としては微妙な釣り合いだし、お父さんは評判が良くないわけだから叩かれるのが目に見えてるものね。

そうすると皇帝陛下は誰と結婚するのがベストなのかしら?

バイエルン王家のプリンセスは病で皇后は無理だと聞いているし。

プロイセンには断られてるしザクセンもダメ、年齢的にもいけるプリンセスがいないのよね。

なかなか難しいとこよね。

私は考えることをやめて、美味しそうなチョコレートケーキ、ザッハトルテを堪能することにした。

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オネエが悲劇の皇后エリザベートに転生したけどなんとかなる件について カトリーヌ・ドゥ・ウッドウェル @youkihi

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